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躾は必要


古泉が指差したところを見ると、名前の背中の水着、そのホックに、あろうことか手を伸ばそうとしているガキんちょの姿が目に入った。

「あいつ!」

思わず叫んで、手元に転がっていたビーチボールをぶん投げた。しかし子供というものはえてして姑息な手段を使うものであり、ボールに気付いてぴゃっと頭を伏せる。その結果誰にボールが当たったかと言うと、

「いったぁ!」

……名前だ。

「なにいまの……って、キョン!?なんで投げるの!?」

怒った様子で振り返った名前にすまんと軽く謝罪する。おざなりな返事に名前はまた気分を害したようだが、俺は一応厚意でやってやったんだぞ。公衆の面前でポロリな展開になるよりは、後頭部にやわらかいビーチボールがぶつかるほうが数倍ましだろ。
生ぬるいプールに入り、ずかずかと歩み寄って名前の腕を引っ張った。

「きょ、キョン?」

「あー、おにーちゃん、ずりー」

ずるいもクソもあるか。
そのままプールサイドに上がり、面白そうに笑っている古泉からタオルを受け取った。その瞳が、子供相手に大人げありませんね、とでも言っているようで腹が立つ。
かれしだかれしだと騒ぎ立てる子供たちにもう一度ビーチボールを投げてやった。ていうかこのビーチボール誰のだ?

「もー、なんであんなことしたの」

それこそプールの中にいる子供たちに言うべきだろう。腕を組んで、小さな子供をしかりつけるような名前に本当のことを教えてやるべきか少し思案した。
まあいい、俺だけ怒られるってのは不公平だろ?大人気なくても構わんさ。

「あのガキどもがお前の水着をとろうとしてたんだ」

ホック云々は俺が気恥ずかしくて言いにくい。
すると名前は、真っ赤になって水面をにらみつけた。しかし怒らないあたり、子供に甘いというか、大人気ない俺とは違う、というか。いっぺん怒ったほうが子供にはいいんだぞ。

「……まあ、取られたわけじゃないからいいや。キョン、ありがとね」

「まあ俺も、ぶつけたわけだしな。おあいこだ」

苦笑を交し合い、今度は名前は慎重にプールに入っていった。次また同じようなことをしたら直談判よろしく俺の拳を子供たちに届けてやろう。
それから古泉と軽く話をしたのだが、突然古泉が、

「ん?」

と、呟いた。



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あきゅろす。
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