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プールイン


市民プールに行くわよ、というハルヒの言葉で、俺たちは自転車を漕いでいた。――俺たちというのは、俺、古泉、長門の三人だ。
俺と古泉が自転車を持ってきていたものの、さすがに二つの自転車に六人はきつい、ということで、レンタサイクルで一台借りてきたのだが。
古泉の後ろには朝比奈さん、長門の後ろには名前、俺の後ろにはハルヒ――って、なんだこの俺いじめ。

「ほらキョン!古泉くんに置いていかれるわよ!しっかり漕ぎなさい!もっと速く、追い抜くのっ!」

やかましい!
大音量のスピーカーを耳の後ろに設置されたみたいだ。近所の躾がなってない犬でもここまでぎゃんぎゃん吼えないぞ。げんなりとした気持ちで必死にペダルを漕ぐ。俺の自転車よ、本当なら後ろは朝比奈さんが良かったよなあ、お前もそれがよかったよな。

朝比奈さんを乗せて優雅に自転車を漕いでいた古泉とは違い、最後まできゃんきゃんわめていたハルヒを乗せた俺は恐ろしいほど体力を消耗していた。ありゃあただのスピーカーじゃない、音量調節が壊れたスピーカーみたいだ。まだ耳がキンキンする。
自転車を停めて、適当なところに駐車した。市民プールというよりは庶民プールだが、それもまたいいだろう。

庶民……、市民プールは、決して高校生が来るようなプールではなかった。
五十メートルのプールが一つと、お子様用の水深十五センチほどのでっかい水溜りしかない。
浮き輪ばかりが浮かぶ、精神的にも身体的にも一桁の子供が溜まるプールを見下ろしてげんなりした。おいハルヒ見ろよ、あそこにいるお母さんなんかこっちを不思議そうな目で見てるぞ。見ないでください。

「うん、この消毒液の匂い。いかにもって気がするわ」

深紅のタンキニに着替えたハルヒが、犬のように鼻をくんくん鳴らす。そんなに消毒液が好きなら消毒液と結婚するがいい。俺は止めない。
バスケット片手の朝比奈さんは、子供のようなヒラヒラつきワンピース、長門は競泳用のような水着、名前は孤島に行ったときと全く同じ、フリルのついたビキニだ。自分の衣装には無頓着なくせに、人の衣装だけは無駄に気合を入れるハルヒのチョイスである。

「とりあえず荷物置く場所を確保して。それから泳ぎましょ。競争よ、競争。プールの端から端まで誰が一番速く泳げるか」

保護者的なことを言う反面、実に子供っぽいことも言う。ハルヒは視力が悪くなってしまったのか、「飛び込み禁止」と書いてあるにも関わらず飛び込んだ。せめて準備体操ぐらいしろよ。

「早くきなさーい!水が温くて気持ちいいわよ!」

水が温くて、なんてフレーズで喜べるか。



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あきゅろす。
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