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レンタサイクルで一台


「…………」

有希は何も言わない。
驚いて頬に触れると、ぽろぽろと涙がこぼれていた。なんで。指先で拭っても拭っても、いつになっても流れてくる。胸が痛い。すこしだけ苦しい。
わかっていたかのように有希が差し出してくれたハンカチを受け取り、頬を拭った。

「名前さん…?どうしたんですか?」

いつの間にか横にいた古泉くんが、私を見下ろしている。その表情が、いつもの笑顔とは違って少しだけ、困惑していた。
ハンカチで拭ってもいつになっても、流れる。おかしい。私の涙腺はどうしたというのだろう。ハンカチが湿って、絞ったら水が落ちるんじゃないかと思うほどに拭っても、涙は止まらなかった。
古泉くんが何か拭くものは無いかと探してくれている。けれどポケットには何も無かったらしく、服の袖でやや乱暴に拭われた。古泉くん、ちょっと君のキャラじゃないんじゃないの、なんて考えて、思わず笑ってしまう。

「いったい、何をお話されていたんです?」

「えっと、えーと」

困って有希に視線を送ると、有希はただ一言、

「秘密」

と言って口を閉じた。
わけもわからず流れ続ける涙を、どうしようもなく流したままにする。これは枯れるまで泣くしかないな。
ハルヒに見つかって「あんたどうしたのよ!?」と問い詰められたが、日差しを直接目に食らって、痛くて涙が出ただけだ、と適当に理由をつけておいた。

「それならいいけど……、無理しないのよ。サングラス持ってくればよかったわね。痛い?」

首を横に振る。

「そう…。痛み出したら言いなさいよね。とりあえず、今からレンタサイクルに行かなきゃ」

自転車で遠出をするから、と言って、ハルヒが私の手を引っ張る。いつになく優しいハルヒに、なんだか嬉しくなった。心配されてるなあ。涙がまだぼたぼたとこぼれていくけれど、今は気にならない。
レンタサイクルで一台借りて、それには私と有希が乗った。古泉くんの自転車にはみくるちゃん、キョンの自転車にはハルヒ。ちなみに漕ぐのは古泉くん、キョン、有希だ。

「ごめんね、有希。帰りは私が漕ぐから」

「いい。大丈夫。つかまっていて」

有希の細い腰につかまり、皆が進むほうへ一緒に進む。一切振動を感じさせない、どういった力を使っているのかはわからないが、不思議な有希の運転にだいぶ心が落ち着いた。
でも涙が止まらない。いったいなんですかこれは。

「そういえば有希、聞きたかったことがあるんだけど」

「なに」



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