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判官贔屓的精神
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それが数日前のことである。
俺は突然だが、拍子抜けしていた。
名前が何かを考えている様子だったから、てっきり今日あたりに何かドカンと来るものだと身構えていたのだが。なんてこたぁ無い、普通の日々が続いている。
俺と名前は揃って居間でテレビを見ていた。全く縁もゆかりもない他県同士の野球試合だ。7対0で負けているほうを応援しているのだが、どうやら俺も名前も弱者を応援したくなるタイプらしい。適当に見ている俺とは違い、名前は熱烈に「いけーっ!そこだ!打てーい!あっ違っ、駄目だってば!追いつかれる追いつかれる塁に戻れっ!」とかなんとか叫んでいる。打てーいってお前。
俺たちは昨日、母親の実家がある田舎まで避暑と先祖供養を兼ねて遠出して、帰ってきたばかりだ。毎年の恒例行事である。ただ今年は少しだけ違った。そばにいる、名前の存在だ。
しかしやはり事象はすべてうまく作られているらしく、名前を連れて行っても何らおかしなことは起きなかった。それどころか、去年も遊びに来てくれたわよねえ、と言われたぐらいだ。身に覚えの無い家で四苦八苦する名前は面白かったが、その話はまたいつかでいいだろう。
それはさておき、そういうことでハルヒたちとは顔を合わせていない。この数日間、俺はなんとも言えない平和を過ごすことができた。いやあ、平凡っていいもんだな。久々に平和をかみ締めたぞ。

「うわっ!」

俺がいきなり悲鳴を上げたのは、誰のせいでもない、手元の携帯のせいである。野球に集中していた俺にとって、突然着信音が鳴るというのは心臓に大変よろしくない。
全く誰だこのやろう、と思いながら、野球観戦を続けている妹と名前を見る。だれからー?と言っている妹に応えてやるつもりではないのだが、表示された名前を見た。――涼宮ハルヒ。

『今日あんたヒマでしょ』

意を決して通話ボタンを押した俺に、真っ先にかかったのはこんにちはとか久しぶりでもなんでもない。ハルヒズム全開の理不尽な言葉だった。

『二時ジャストに駅前に全員集合だから。ちゃんと来なさいよ』

そしてぶつりと切れる。俺が何かを言うよりも早く、だ。一方的な会話というものをこれほど身をもって味わったのは初めてだな。…なんて思っていると、また携帯が鳴る。

「なんだ」

『持参物を言い忘れてたわ』

通話を終わらせたいのかと思うほどの早口で持参物を伝えたかと思うと、

『それとあんたは自転車で来ること。それから十分なお金ね。あっ、名前もいるんでしょ?伝えといてよね。名前にも自転車があればなおオッケーだけど、まあ無ければいいわ。おーばー♪』



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あきゅろす。
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