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向かう先


うだるような暑さだった。
みんみんみんだかじーじーじーだか、とにかく虫たちが犇き合い騒ぎ合い、どこの宴会に紛れ込んだのかと思うような騒音が耳を襲う。騒音で苛立ちが増す上に、暑さでさらに苛立ちが増す。いかん、悪循環だ。
この時間帯はエコノミーモードだかなんだかでうまく作動しないエアコンを睨みつけ、がしがしとリモコンのボタンを押した。ぶううん、という鈍い音がするだけで、一向に涼しくはならない。おかしいな、いくらエコノミーモードでもちょっとは涼しくなるはずなのに。俺の部屋で涼もうにも娯楽が無いものだから、二人して大きく窓を開くことができる居間で寝転んでいる次第だ。
隣の名前を見つめると、やはり俺と同じようにけだるそうな表情で空を見上げていた。眩しいのか目を極限まで細めている。そんなに眩しいなら見上げるんじゃありません。

「……キョン、どこかでアイス買おうよ」

半ば悲痛な声音で言った名前の提案に、俺は何も考えず即答した。

「よし。スーパー行くぞ」

コンビニだと、俺たちとおおよそ同じような目的で集まる若者が蔓延って大変だろう。だったらスーパーのほうがまだましである。広い空間であれば多少涼むだけでも見咎められたりはしないだろう。
開け放した窓を閉めて、横で虫の騒音に負けじとわめいていたテレビも消す。寝転がってまだ空を見上げている名前を起こし、蒸れる靴は避けてサンダルを履いた。

「あついよう……」

「奇遇だな、俺もだ。ほら、行くぞ」

だらけてあまり前に進もうとしない名前の手を引っ張り、自転車に乗る。自転車で走れば体温は上がろうとも風が吹くだろう。荷台に名前を乗せ、一気に突っ走る。
どうせなら帽子も持ってくるべきだったな。俺も名前も、揃って濃い髪の毛の色だから、日光を思い切り吸い込む。どちらかが日射病で倒れても何ら不自然ではない。名前は俺より髪の毛が長いからなおさらに暑いはずだ。できるだけ日陰を通り、太陽光を浴びないようにした。かんかんと照るアスファルトが熱を放つ。アスファルトに打ち水してもあんまり意味無いんだよなあ、と、なんとなく思った。
ほぼ自棄になって自転車を漕ぎ、たどり着いたスーパーの混雑した駐輪場に自転車を突っ込む。二人してスーパーの中に逃げるように入った。ひんやりとした空気が肌の上を滑っていく。

「う、タオル持って来ればよかった」

「どうしてだ?」

「汗が冷えたら風邪引いちゃうよ」

夏風邪はバカしか引かんらしいから、お前は大丈夫だろう。という言葉を飲み込んで、比較的クーラーが当たりすぎず、当たらなさすぎずのところを探した。ちょうどいい場所は菓子コーナーだな。ただしこの季節、夏休みに浮かれて遊ぶ子供たちが駆け回っているものだから、菓子コーナーでは気軽に涼めない。

「お菓子買って行こ。キョン、何か食べたいものある?」

七月のうちになかなか儲けた名前が、嬉しいことにサービスしてくれた。じゃあこれ、と言って適当な菓子をひとつ選ぶ。「これだけでいいの?」と言われたのだが、なんだかこいつに奢ってもらうと負けたような気がするからこれだけでいいんだ。



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