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落ちる首


「どうしてだ。心霊番組とかは見てただろう」

「いや、その。見てるぶんには平気、っていうか。体験するのは、ちょっと」

「あー………」

確かにいるな、心霊番組は平気だけど実際の心霊スポットとかは怖いっていうやつ。
かたかた震える小さな手を握ってやる。そのとき、どこか遠くで女の悲鳴が聞こえた気がした。
少なくとも、はっきり「怖い」と体現しているのだから、俺はこいつを守ってやるべきだろう。男としての義務だ。それになんだろうな、一方が怖がってると逆に怖くなくなってくる、というか。不思議だな。

「大丈夫だ。とりあえず今は、俺がいるだろう」

「う……、ん」

弱弱しく頷いた名前を見下ろして、内心参ったな、と呟く。こいつがこんなに震えているところなんてあんまり見ないからな。
そしてこういうときに限って俺はいちいち思い出さなくていいことを思い出すのだ。

『彼女?』

『………そうです、俺の彼女です』

ぐわあああああ、何を思い出してるんだ俺!
恥ずかしくなって頭を猛スピードで振ったが、名前は幸いなことに気付いていない。
そのときだった。突然冷たい風が頬を撫でて、風が流れてきたと顔を横に向けた瞬間、目の前に首が落ちてくる。

「ひぎゃあああああ!」

普通こういうときは俺が叫ぶべきなんじゃないのか。なんてったって眼前だし。
にも関わらず、叫んだのは名前だった。俺の腕に力強くしがみついてくる。ちょっと役得とか思ったのは内緒だ。

「ほら名前、よく見てみろ。つくりが甘いからあんまり怖くないぞ」

「う………」

こういうのは暗闇の中、突然、頭、というキーワードが重なってはじめて怖いと感じるもので、明るいところで見たってシュールなだけだ。
糸でつるされた首を指でぴんとはじくと、名前も恐る恐る顔を上げた。
しかし顔を上げたタイミングが非常によろしくなかった。
俺が指ではじいたせいで、一度首が浮かび上がったのだ。そして、名前が顔を上げた瞬間に、それが再び落ちてきた。もともと糸がたわんでいたのも相まって、首が今度こそ本当に「落ちてきた」のだ。

「いやあああああああああ!!!」

初めてと言ってもいいほどで名前が女の子らしい悲鳴を上げる。さっきだってひぎゃああだったし。俺の腕から離れてどこかに走り出そうとするので、なんとか捕まえたのだが、逆に腰に縋りつかれてしまう。
その背中を軽く撫でながら謝罪した。



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あきゅろす。
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