お化け屋敷内部
多分あれは俺たちをボコボコにするか、カツアゲするかのどちらか――、いや、両方だろうな。両方の目的で追いかけてきているに違いない。
名前の手首を掴んで走る。俺はスニーカーだからまだしも、名前が履いているのはパンプスとやらだ。うまくは走れないだろう。
「隠れるぞ!」
「隠れる……て、どこに……」
早くも名前が息切れを起こしていることに気付き、俺は比較的近くにあった建物に飛び込んだ。それがどこだかなんて見ている余裕は無い。強いて言えば入った瞬間闇に包まれたのに驚いたくらいか。しかし、隠れるならばこの暗さは最適だ。
「ここ、どこ?」
男たちの声が聞こえなくなった。見失ってくれたか、と思いながら、あたりを見回す。んん?本当に真っ暗だな。
「明かり……、あ、携帯が」
名前が携帯を取り出して足元だけでも照らしてくれたのだが、いかんせん足元だけが明るくても全く見えない。俺の携帯で眼前を照らしても、ひたすら平坦な道が広がっているだけだ。
「もしかして」
「………お化け屋敷か?」
「………じゃない?」
うわあ。
思わず俺が眉を寄せてしまったのも仕方の無いことだろう。お化け屋敷って。隠れる場所に最適でも俺の精神に最適じゃない。というか、非常によろしくない。
「…キョン、お化け屋敷苦手?」
「いや、そ、そんなことはないぞ」
「……嫌いでもないけど好きでもない、ですか」
「まあそんなかんじだ」
好んでこんな場所にはあまり来ないな。心霊特集だってあまり見ようともしないのに。つまり俺には、耐性が無いのだ。こういう恐怖モノに。暗闇恐怖症とかそんなのではないから、多少は平気だと思うんだが。
対して名前は、多分大丈夫だろう。心霊特集とか結構好んで見てたし。どうしよう俺がお化けに悲鳴上げちゃったら。なんて考えていると、ふと体の左側に寄せられた名前の体が震えていることに気付く。
「え…?」
「……………」
「…お前、まさか………」
「……………」
「……お化け屋敷、苦手なのか?」
「……………………」
特別長い沈黙は肯定だということにしよう。
前*次#
[戻る]
無料HPエムペ!