しつこい男は嫌われる
「名前、ちょっと伏せてろ」
「え?」
まだ男(めんどくさいから男A男Bと名づけよう)Aが名前の腕を掴んでいるため、少しだけ名前を胸元に引き寄せる。名前が俺の言葉どおりに頭を伏せた瞬間、俺は名前が持っていたオレンジジュースを取り上げ、男の顔に思い切りぶっかけた。
「っぷわ!」
間抜けな声とともに、名前の腕にかけられた力が弱まる。それを見計らって腕を抜くと、そのまま駆け出した。
「てめえ!」
ドスのきいた声が背中に降りかかってきたが止まっている余裕など無い。『発車します』とアナウンスが流れている豆鉄道に急いで駆け込んだ。
男たちが豆鉄道に乗り込んでくる一歩手前で発車し、なんとか逃げ切ることができて、俺はほっと胸を撫で下ろす。名前も小さく息を吐いた。
「キョン、助かったよ……」
「お前なあ………」
溜息を吐きながら頭を撫でてやる。怪我がなくてよかったが、精神的にはだいぶ苦しいものがあったぞ。少なくとも俺よりは年上に見えたし、男二人相手に喧嘩で勝てる自信はない。
「それで、勢いで乗っちゃったけど、この豆鉄道どこ行くの?」
「さあ………って、嘘だろ!?」
思わず俺が声を張り上げたのも仕方がないことだと察していただきたい。目の前には、にわかには信じがたい光景が広がっていたのだ。――男Aと男Bが追いかけてきている!
ジャイアンでもここまでしつこくねえよ、と思いつつ眼下に広がる光景を眺めた。わずかに豆鉄道のほうが速いのだが、さすがは「豆」、つかず離れずで男たちが歩を進める。
「面倒だな………」
「キョン、止まったらすぐに走ろう」
「ああ」
その頃には男たちの体力も減っているだろうと予想して、男たちを見下ろした。
『まもなく終着いたします』
女性のアナウンスが流れ、豆鉄道がゆっくり減速していく。…男たちが乗り込んでくるタイミングを見計らって、間反対のところから降りた。
「名前、走れ!」
「いえっさー!」
イエッサーって、お前。
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