穏便派の一撃
でも、ジュースは買ったのに戻ってきていないのはどういうことか。やっぱり迷ったのか。それが一番有力だな。
こんなことになるなら最初からついて行けばよかった、と考えつつ、歩調を速める。ハルヒがジェットコースターから戻ってくる前には見つけ出さないとな。
そのときだった。屋台から数十メートル離れた、豆鉄道の近くから聞きなれた声がしたのは。
「放してください」
いつになく険のある声に反射的に顔を上げる。今のは確実に、名前だ。どこだ、と小さく呟いて視線をめぐらせる――いた。
しかし、そのとき俺はつくづく思い知った。あいつはトラブルメーカーだ。ハルヒほど大規模じゃないが、さすがはハルヒの卵と言ったところか、勝らずとも劣らずといった程度のトラブルを起こす。
名前は、知らない男に絡まれていた。手には律儀に飲み物を持っている。明らかにジェットコースターからは離れた場所にいるということは、連れてこられたか迷ったか…多分後者だな。
「いいじゃん、一緒に遊ぼうよ」
「連れがいますから」
「今はいないじゃん」
「今から戻るところだったんです!」
強気にそう言い放ち、自らの腕を掴んでいた男の手を叩き落とそうとした名前だったが、その反抗的態度がいけなかったのかもしれない。
カッとなった男が無理に名前を連れて行こうとする。
「おい、名前!」
反射的に声を上げた。
ぴたりと動きを止めた男と、肩をこわばらせた名前がこちらを向く。動きが止まっているうちに駆け寄り、名前の腕を引き寄せた。
「すいません、俺の連れなんで」
人数が二人。できることなら穏便に事を済ませたい。
しかし、第三者の介入がいけなかったのか男は(男たち、のほうがいいか?)余計気性荒く俺と名前を睨み上げてきた。
「じゃあ金出せよ」
おいおいおい、俺が絡んだらカツアゲかよ。
一種の呆れを覚えながら、名前に視線を落とす。こちらを見上げていた名前が、絶対にあげちゃだめとでも言うように首を横に振っていた。当たり前だ、誰がやるか。
「金持ってません」
「ふざけんな!」
「ふざけてません」
穏便に事を済ませようと思いつつも、俺の態度がどこか挑戦的になってしまうのは、多分こいつらが名前を殴ろうとしたからだろう。
いい加減話を長引かせるのも疲れたので、不本意ながら手荒い行動を起こさせてもらうことにした。全く、俺は穏便派だというのに!
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