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不安が駆け抜ける


生ける屍と化した朝比奈さんをベンチに座らせて、ハルヒの開口一番がこれだ。

「みくるちゃん、そんなんじゃダメね。絶叫系の真髄をわからなければSOS団の団員は務まらないわよ!」

彼女に絶叫系を推進しても無駄だろう。
ぐったりした朝比奈さんに飲み物を買いに行った名前がいないため、ハルヒは長門を連れて再びジェットコースターに行ってしまった。

「大丈夫ですか、朝比奈さん」

「きょん………、くん………」

余命数ヶ月と言われても違和感の無いような変わり果てたお姿になってしまった。おいたわしい。
苦笑するしかない古泉と俺は、朝比奈さんが寝ているベンチの隣のベンチに腰掛け、名前の帰りを待つ。

「まさかここまで憔悴されるとは思っていなかった」

「なんとなく想像はつきましたけどね。彼女に絶叫系は似合わないでしょう」

「ま、確かにな」

うんうん唸っている朝比奈さんについて語り、ほぼ同時に溜息を吐く。
まあ俺だって、諸手を挙げて「ジェットコースターが好きだ!」なんて言える性格ではないが、別段嫌いというわけでもない。
やっぱり、あれは人によって好き嫌いが激しいものなのだ。あのスピード感、空気による圧迫感。嫌いな人にはとことん嫌いなものだろう。
朝比奈さんがジェットコースター恐怖症にならなければいいんだが。

「………」

「………」

話す話題も無いので、お互い黙り込む。俺たちなんてそんなもんだ。
しかしその沈黙はあまり長く続かなかった。なぜなら、古泉が言葉を発したからだ。

「…名前さん、遅いですね」

「……そうだな。飲み物買ってるだけにしては……」

まさかとは思うが、あいつ、迷ってるんじゃないだろうな。
一抹の不安が俺を襲い、それと同時にいやな予感も背中を駆け抜けたので、ほぼ反射的に立ち上がった俺は古泉の顔を見る。

「ちょっと探してくる。朝比奈さん見てろよ」

「了解しました」

古泉からの返答を聞き遂げる前に走り出した。
なんだろうな、言葉にしがたいんだが、変な焦燥感が胸の内でぐるぐると回っている。杞憂に終わればいいんだが。



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