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赤色の理由


移動に三十分ほど費やし、たどり着いたのは池の畔。住宅街の真ん中といっていい場所であり、池と一口に言ってもかなり広い。

「もうそろそろ鴨が来るころあいでしょうね」

「鴨?雁は?」

「ああ、雁も来るかもしれません」

曖昧な古泉と名前の会話を聞きつつ、俺は池の周囲の鉄製フェンスを見つめる。進入禁止が明示されているのを見ながら、馬鹿だなあフェンスがあれば入っちゃいけないなんて常識でわかることだろう、と考えた。

「何してんの、さっさと乗り越えなさいよ」

ああ、そういえばこいつは馬鹿だったんだなあ。
よほどのアホか小学生でなければしない行動だと思っていた矢先、高校生の身分でありながらアホと小学生以下の行動に出たハルヒを遠い目で見た。

「ハルヒの行動力には目を瞠るものがあるよねえ」

「そうですねえ」

どこの熟年夫婦か、とでもいうようなのんびりとした古泉と名前の会話をやはり聞き流しつつ、俺は視線を横に流した。
スカートを押さえて青い顔をする朝比奈さんと、その横でまるで朝比奈さんの元気を吸い取っているかのようにハツラツとした笑顔を浮かべる鶴屋さん。

「え?ここで何かすんの?とわっはは!みくる泳ぐの?」

まさか、とでも言いたげに首を左右に振る朝比奈さんは、緑色の水面に視線を固定させてぷるぷると震えた。小動物愛護協会なんかに登録しても誰も文句は言わないんじゃないだろうか。

「乗り越えるにはちょっとこの柵は背が高いですね。そう思いませんか」

古泉が問いかけたのは俺ではなく長門だ。しかし、長門にそんな日常的会話を吹っかけても返ってくる確率は限りなく低いと思うぞ。
と思っていたら意外にも、長門はアクションを起こした。フェンスの柱になっている鉄の棒に手をかけ、ちょいと動かす。どこの熱で溶かされたのかとでもいえる勢いできゅるりと棒は曲がった。そのまま、低い位置で固定する。

「うわあ……」

どういったリアクションを取ればいいのかわからず苦笑を浮かべる名前の横で、俺は古泉を見上げた。こいつ、まさか長門を利用したんじゃないだろうな。いや、その可能性は大いにありえる。でなければ、あんな話題を長門にふるはずがないからな。
まあ、こちらとしても柵が通りやすくなるのはありがたいので何も言わず柵の隙間に体を滑り込ませた。

「へえ、古くなってたんだね」

「だから俺は何をすればいいんだ。カッパ役か?」

柵を各々で通り抜け、国木田、谷口が波打ち際へと歩いていく。それから「このへん家の近所なんだよねっ。昔は柵なんかなくてさあ、よくハマったよっ」と言いながら鶴屋さんも続き、引っ張られた朝比奈さんもおずおずと柵を抜ける。

「さ、名前さん」

「う、うん」

柵を越した後で背後から聞こえた声に立ち止まれば、古泉に手を引っ張られて名前が柵を抜けるところだった。おい古泉、そこは無理に引っ張らないほうが通りやすいと思うんだがな。

「え、あ、ちょっ」

「?」

足が地面についたと思ったそのとき、名前が中途半端に片足を浮かせた状態で止まる。どうしたんだと問いかけようとしたが、名前は黙り込んだばかりか、突然顔を真っ赤に染めた。



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あきゅろす。
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