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いい子いい子


「………あの」

「んん?」

「えっと、あの」

「んー?」

「いえ、その……、………名前さん?」

「ん?」

古泉くんの当惑した声が聞こえて、私はほぼ反射で返事をする。
それから、突然右手首に誰かの手が絡みついてくる感触に驚いて目を見開いた。私の掌には、さわり心地のいい、血統書つきの犬の毛を撫でているかのような感触が張り付いている。何を触っていたんだろうと頭の片隅で考えた。
そして、私の右手首を握っている…まあ、手を添えている程度だけど、握っているのは古泉くんで。

「……なぜ僕は、撫でられているんでしょうか………?」

「……………え、あれ?」

びっくりして手を引いた。古泉くんの手が離れる。
今更気付いた、私の右手は古泉くんの頭を撫でていたのだ。…完璧に無意識に。そんな、子供じゃあるまいし。あやすような行為に及んでしまった私に、古泉くんは困惑することしきりだ。さらに言わせてもらうと私も困惑している。

「ごめん、いやだった?」

髪の毛をセットしていたら崩れるよね。急いで問いかけると、古泉くんはあわてたように手を振る。

「いえ、そんなわけでは」

「うん、ならよかった」

今度こそ自覚してから手を伸ばす。古泉くんの頭を撫でるには少し背伸びをする必要があったので、ぐんと腕も伸ばす。
なぜ僕は撫でられているんでしょうか、の問いにまだ答えてないことに気付き、今更ながら口を開いた。

「おつかれさま、古泉くん。…いいこ、いいこ」

「っ…………」

くすぐったそうに頬を緩めて(今にも泣き出しそうにも見えた)、古泉くんはかすかに身をよじった。その拍子に脇に抱えていたレフ板が斜めに傾き、近くの石垣に当たる。かりり、と小さな音がして、その音に振り返ったキョンが足を止めた。

「何してる」

国木田くんと谷口くんを置いてこちらに歩いてきたキョンが、私の手を取って古泉くんの頭から下ろす。何をする。

「意味は無い」

無いんかい。

「がんばってる古泉くんにね、激励」

「……なんだそりゃ」

キョンはあきれるように言った後、私のカッターシャツの襟首をガツッと掴んで、ずるずると引きずり出した。靴が削れる!キョン、やめたまえ!

「こ、古泉くん、何立ち止まってるんだい」

せめてとめてくれ、という思いで見つめてみると、古泉くんは私が撫でていた箇所を手で確かめるように触れて、それからはっと気付いたようにこちらに向かって小走りで駆けて来る。
その表情がさっきまでの疲れていたような笑顔とは違い、無邪気な子供のような笑顔だったので、なんだか私までつられて笑ってしまった。



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