不思議なひと
「そういえば、噛まれちゃいました」
左手首をさするその姿を見ながら、俺は問いかける。
「何にです?」
「長門さんに。なんだか、ナノマシン注入がどうとかって……。でも、目からは何も出なくなったみたい。よかった」
つまりもうあんな惨事にはならないということか。で、何を注入?
「昨日の夜です。古泉くんと一緒にあたしの家に来て……」
俺は荷物番を頼まれたらしい古泉に視線を移した。いつの間に移動したのやら、古泉の横には名前がいる。それから離れた位置に谷口と国木田が。
古泉はハルヒとなにやら話をしているようだった。それにしても、朝比奈さんの家に行っただと?なんてうらやましいことをしているんだお前らは。いや、長門はともかく古泉。俺も呼べ。
「なに内緒話してんの?」
突如、鶴屋さんが片腕を朝比奈さんの首に絡めた。朝比奈さんはびくりと肩を震わせて、「つつ鶴屋さんっ!」と声を上げる。
「みくる可愛いなあっ。家で飼いたいくらいだね!キョンくん、仲良くしてやってるーっ?」
ええ、それはもう。後、あなたの意見には心の底から賛同です。家で飼えるものなら飼いたい…俺が言ったらただの変態だな。
「キョンくん、キミ果報者だねっ!こーんな可愛いみくるや、美人な涼宮さんに、ぷりちーな名前ぷーとかっこかわいい有希ちゃんもいるときた!」
俺はいったいどういう反応を返せばいいのやら。
とりあえずハルヒは除いてもいいですか。そしたら確かに俺にとってはハーレムです。
「ま、より取り見取りっさ!ただし、遊びすぎておイタしないようにねっ!」
「は、はあ……」
鶴屋さんの忠告なのかからかいなのか、よくわからない言葉を受けてから俺は苦笑する。朝比奈さんも困ったように笑っていた。同じことを違う人から言われたら少しは「はあ?」と不快な気持ちになっていたかもしれない。ただ、鶴屋さん相手だとそんな気には全くならないんだな、これは。
谷口と国木田コンビは、離れた位置から半口を開けて朝比奈さんを見ていた。それはもう穴が開きそうなほどに。うっすら頬を染めているのもむかつくから見るな、なんて思っていると、いつの間にやらこちらに来ていたハルヒが叫んだ。こんな近くで叫ぶな。
「場所が決まったわよ!」
何の場所だ。
「ロケの」
端的に言い放ったハルヒは、既に映画を撮っていたことを忘れかけていた俺を半ば睨みつけ、それからぱっと笑顔を浮かべる。
「古泉くんの家の近くに大きめの池があるらしいの。とりあえず今日はそこで撮影することから始めましょう!」
古泉の家の近くか。ていうか、古泉の家…にも、行ったことはないな。俺が唯一行ったことがあるのは長門の家というわけで、それもなんだか不思議な気がした。
さて、移動する際に俺は朝比奈さんにまだ視線が釘付けの(谷口あたりは目のオアシスが現れて合体なんとやらで天にも昇る気持ちなんじゃないだろうか)二人をとっ捕まえ、仲良く荷物を分け合った。
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