幼馴染の役割
お前、本当にいきなり横に立つのやめろよな。
「失礼。ああ、失礼を重ねますが、ここに」
古泉がなにやら言って、自分の眉間を指差す。それから、まるでおとぎの国の王子だとかそんな薄ら寒い表現が似合いそうな気障な笑顔を浮かべて、
「しわが」
と、一言続けた。
は?しわ?
「ええ。皺が寄っていますよ。何かよくないことでもあったんですか」
「……」
今の今で古泉のこの発言は、いったいどういう真意を含めているのだろうか。
よくないこと。まああったと言えばあったことになるのだろう。逆に俺がなかったと言い張ってもなかったことになるに違いない。
国木田と名前の仲のよさに少し何か引っかかるものがあったが、俺がどうこう言うような話題でもないしな。
古泉は俺が何も言わないことに別段何か言うわけでもなく、腕を組んでにこにこと笑っただけだ。お前、言いたいことがあるなら言えよ。
「いえ、見ていて楽しいなと。青春ですね」
お前はどこの親父だよ。
俺は相手をするにも疲れ、また名前たちに視線を戻した。ちなみに長門は鶴屋さんとなにやら会話をしているようだ。とは言っても鶴屋さんが一方的に喋っているだけで、会話として成立しているかと問いかけられると素直に頷けないが。
「涼宮さん、遅いですね」
「………」
不意に古泉がこぼした言葉に俺は心の中で同意する。朝比奈さんの家までの距離が遠いのか、朝比奈さんを説き伏せるのに時間がかかっているのか。恐らくは前者だろう、ハルヒが朝比奈さん相手にここまで時間をかけるとは思わない。
「さて、そろそろ僕も疑問なんですが」
「…なんだ」
こいつも大概ヒマなのか(そして俺も例に漏れずだが)、いちいち話の種を探しては俺に言ってくる。そして返す俺は自分自身に律儀だなあ、と思ってみた。
「名前さんの役どころです。今のところ撮影はまだですが、いったいどんな役回りなのだろうかと」
「だから、お前の……古泉イツキの幼馴染だろう。それ以外に何がある」
「いえ、そうではなく。幼馴染というのは具体的に、どう物語に関与するのかと思いまして」
古泉の言葉に、俺は開けていた口を閉じた。確かにそうだ。未来から来た戦うウェイトレス、そして超能力少年、悪い宇宙人。この三人は物語の進行上、どういう行動をするのかどういう演技をするのかが想像できる。
しかし、超能力少年の幼馴染、というのは何をするのか、全く想像がつかない。まさか漫画で言うところの幼馴染と恋に落ちる、なんて話になるんじゃないだろうな。
「それはないでしょう。彼女は助演女優ですから。朝比奈さんならまだしも」
「……」
朝比奈さんならってお前。まさしく両手に花だな。長門もいるしで両手どころかハーレムじゃないか、忌々しい。
俺は大きく溜息を吐いた。そのときだ、待ち望んではいないが、早く来ないと話が進まないと思っていた司令塔が帰ってきたのは。
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