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黒蜜飴と読書娘



「その朝比奈みくるですが」

お前は何様だ。呼び捨てにするな、不愉快になる。

「失礼。朝比奈さんですけどね、とりあえず怪光線を出すことは何とか回避できそうです」

まるで朝比奈さんのことをどこぞの被験者のように呼んだ古泉は、不快をあらわにする俺に軽い謝罪を入れた後、今日は天気がいいですね、とでもいうようなノリでそんなことを呟いた。
どうやってあのなんとかレーザーを回避できるんだ?カラーコンタクトの予備をハルヒが用意していないとでも楽観視しているのだろうか。まさか、こんな周到な奴が。

「いえ、それは折り込み済みですよ。長門さんに協力してもらいました」

俺は駅の売店を凝視している長門に視線をやった。隣には名前がいて、なにやら軽いお菓子でも買うつもりらしい。「有希、何か食べたい?」ここまで届く名前の軽快な声に、「……黒蜜飴」とまたどういうチョイスなのか、淡々とした長門の返答。
視線を戻し、見たくもないニヤケ面を睨んだ俺は、口を開く。

「朝比奈さんに何をした?」

「そんなに目くじらを立てなくとも。レーザー照射をなくしただけです。僕もよく知りません。長門さんは他のTFEI端末と違ってぜんぜん喋ってくれませんからね。僕は危険値をゼロにするよう依頼しただけです」

古泉の言葉に俺は眉を寄せる。聞きなれない単語があるのは毎度のことだが、引っかかる単語が飛び出たからな。

「TFEIって何だ?」

「我々が勝手に付けてる略語です。知らなければならないものでもないですよ。ですが、僕が思うに長門さんは『彼ら』の中でも一際異彩を放っているような気がしますね。彼女には単なるインターフェース以外に何か役割があるのではないかと、僕は考えてもいます」

勝手に付けてる略語とは言っても、こうして会話に折り込んでくるということは日常的に使っている言葉なのだろう。改めて古泉のバックに機関というものがあるのだと思い知らされる。
しかし、なんだろうな。TFEI端末っていうのが長門たち宇宙人を示すのだとすれば、確かに長門は喋らない上に一際異彩を放っている気がする――まあ、そうたくさんの宇宙人に出会ったわけでもないのだが。
無口な読書娘である長門に、ハルヒを観察する以外の何があるというのだろう。考えながら、俺は朝倉涼子のことを思い出していた。あいつは消えて惜しまれる存在だったな。俺は惜しんでなどいないが。




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あきゅろす。
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