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火噴きマジシャン


「あたしが迎えに行ってくるから、ちょっとその荷物貸して」

衣装の入ったクリアバッグをひったくるように取ってから、ハルヒは近場のタクシー乗り場まで全力疾走で向かっていった。それから乱暴に眠っていたらしい運転手を起こし、発進させる。
衣装の入った鞄がここにあったということは、また現場で着替えをするつもりだったのだろうか。まあ、着替えてからここに来いという方が酷な気がするからそれはそれでいいのだろうが、どちらにせよ昨日のように茂みに隠れて着替えるのは朝比奈さんにとって非常な精神的苦痛となったに違いない。

「朝比奈さんの気持ちもよく解りますよ」

いつの間にやら俺の隣に立っていた古泉が朗々と言う。朝比奈さんならともかく俺はお前の気持ちはわかりたいとは思わないね。

「なんせこのまま行くと本物の変身ヒロインになりそうな雰囲気ですからね。いくら何でもレーザー光線はやりすぎですよ」

俺は鶴屋さんと話をしている谷口国木田コンビをぼうっと見つめながら返す。

「やりすぎでないものと言えば何なんだ」

俺の問いかけに古泉は、顎に手を当ててお決まりのポーズ。それから数回目をきょろきょろとさせた後、真剣ですといった口調で呟く。

「そうですねえ。口から火を噴くぐらいでしたら仕込みもしやすいのですが……」

なんだその新米のマジシャンのような仕込みは。未来からやってきたウェイトレス、特技は火を噴くことです…なんて、どんなコアなマニアでも寄ってきてはくれないだろう。
あの愛らしい唇に火傷でもさせてみろ、責任を取って切腹でもしろと俺は叫ぶだろう。まさかいろんな意味で責任を取ろうなんて考えちゃいないだろうな。

「いえ。僕が責任を感じるのだとしたら、それはあの《神人》の暴走を許してしまった時くらいですよ。幸いにしてそのような事態に陥ったことは……ああ、一回ありましたっけね。あの時はありがとうございます。あなたのおかげで何とかなりました」

またもお前は思い出したくない出来事をさっくり掘り返してくれやがって。
嫌いじゃないが特別好きというわけでもない女子に連れまわされた挙句、き、き、キ(自主規制)をするという運びになってしまったのは忘れたい出来事だ。いろんな意味で。あの時はまだ離したくないなんてちょっと尋常じゃない思考をしていたが、精神がおかしいことになっていたのさ。忘れたい。
あの時の報酬は、涙目の朝比奈さんが抱きついてくれたことと、俺のことを心配して名前が泣いてくれた。それだけで十分だ。あいつの泣き顔はできるならば見たくない。
まあそれは置いておくとして。古泉にお礼を言われなくたって俺は構わないのだ。言われたところで嬉しくないしな。




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あきゅろす。
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