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普通人間谷口推参


朝。寝ぼけた頭でいつもどおりに過ごし、朝食を食べ、鞄を持っていざ学校へ出陣とするところで急に電話が入った。『涼宮ハルヒ』と映し出された液晶を見て俺は一瞬現実逃避をしようかと遠い目をしてみる。だがしかし、ここで電話に出ないとそれはそれであいつは機嫌を損ね、また俺たちに迷惑をこうむりかねないので、仕方無く出ることにした。

「なんだ」

『あ、キョン?まだ家にいる?ていうかいなくても頼まれてよね。あのさあ、名前って転校生でしょ?前の学校の制服とかあるでしょ?それ持ってきてくんない?』

「なんであいつに直接言わない」

『だって電話したらあの子、もう学校にいるって言うんだもの。取りに戻させるのはかわいそうでしょ』

あいつはかわいそうでも俺はかわいそうじゃないんだな。
溜息を吐いてそれを了承し、右足だけ履いていた靴を脱ぎ、名前の部屋に入る。ほぼ習性でノックをしてしまったが、勿論返事が返って来ることはなかった。
部屋の中はすっきりとしていて、あまり生活感が無い。机や椅子は勿論、ろくに家具だって無いからな。オフクロが片づけをしたら譲ると言っていた部屋はまだ物置のままだ。

「これか…」

壁にかかった制服を手に取り、ハンガーから下ろして腕に抱え込んだ。俺より一回りほど小さいその制服は、北高のセーラー服とは違って気品のあるブレザーだ。
あいつ、前にいた世界では結構優秀な学校にでも行ってたんじゃないだろうか。何を書いてあるのかわからない校章に目を向けて、そらす。畳み、皺がつかないように袋に入れると、事前にハルヒから頼まれていたモデルガンやらを鞄に押し込み、今度こそ家を出た。

坂を上っていると後ろから声がかけられる。谷口だった。こいつが近くにいると一気に世界がリアルになる。普通な奴だと、谷口からしてみれば失礼かもしれないが、俺からしてみると奇跡にも近い言葉を頭の中で思い浮かべながら、とりあえず比較的軽いスーパーの袋を押し付ける。

「なんだこりゃ、モデルガン?お前、こんな暗い趣味があったのか」

「俺じゃない。ハルヒの趣味だ」

俺を疑り深く見つめてきた谷口に、間違いの無い真実を伝えた。
だが次に、俺の持っていた袋をちょいと覗き込み、今度こそ一気に俺から離れる。「お前、その制服………、女物………」青ざめた様子で谷口が呟いたのなんて聞かなかったふりだ。

「俺のじゃない。名前のものだ」

とにかく否定をし続けた。谷口は名前の名前が出てきた瞬間、顔を輝かせて近づいてきたのはどういうことだ。「これが名前の転校前の制服かあ!」なんだその気持ち悪い笑顔は。やめろ近づくな触るな。ていうかお前いつの間にあいつを呼び捨てで呼ぶようになった。




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