ポカンと1発
キョンは私の顔を見るなり、つかつかと歩み寄ってきて私の頭をポカンと叩いた。
「あいたっ」
「あいたっ、じゃない。こんな遅い時間まで何してたんだ!」
「……………寝てましたけど」
あまりに素直に言い過ぎたのがダメだったのか、もう1発ポカンと。「あいたっ」寝起きに頭を攻撃されると思いもよらない痛みが襲ってくるんだ。
「だって疲れてたんだもん。本当に。眠くて眠くて…」
「そうは言ってもな、本番一週間前でもないのにこんな時間まで残ってたら怒られるぞ」
「……」
そうなのだ。一応規則として、本番1週間前になってからは7時まで残ることが可能でも、それまでは基本的に5時下校、先生に許可を取ればそれぞれ、と決まっている。
まだ1週間前になっていないので、キョンが注意してくるのも当たり前だ。
「それはそれとして、キョンこそ何してるの。ビデオカメラの調達に行って、家に帰ったんじゃなかったの?」
なんでお前が知ってるんだ、いや、知ってるんだったな、と明らかに顔に表情が浮き出て、それから溜息が返される。
「…オフクロに迎えに行ってこいって言われたんだよ」
「へえ…。」
気だるげに言うくせに、肩を上下させているのはどういう理由なのかな、キョンくん。
まあそこは深く突っ込まないでいてあげよう、と上から目線で考えつつ、私は手に持っていたカーディガンとブレザーを畳む。
「それはなんだ」
「ん、これ?多分だけど、古泉くんのブレザーと有希のカーディガン」
「………」
キョンよ、なぜそんな複雑そうな顔をする?
ひとまず持っていた手ごろな袋に入れて、鞄の中にしまう。明日返そう。それにしてもあったかかったなあ。
有希のカーディガンはともかく、古泉くんは明日ブレザーどうするんだろう。直接家に返しに行くべきか。でも、それはそれで逆に気を遣わせてしまいそうだし、まあやっぱり明日でいいか。
「というか、気になったんだけど、キョン。ビデオカメラとか、家にもって帰ったよね?」
「…ああ」
「明日持って来いって言われたんでしょ?ついでに持ってくれば良かったのに」
「………」
キョンがしまったしくじった、という表情を浮かべてげんなりと項垂れる。ドンマイキョン。肩をぽんぽんと叩き、とりあえず部室から出た。忘れ物の確認をして、ドアを閉める。
テーブルの上に「お願いします」と乱雑な字で書かれた紙と鍵があったので(恐らく古泉くんだろう。案外汚い字だった)、鍵を閉めてポケットに入れた。
このときの私はまだ自分に課せられた役目など露知らず、アンケートのことで頭が一杯で。後々になって後悔に近いような気持ちを覚えることになるのだが、ひとまず今日は何事もなく平和に終わった。
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