超能力者の恋愛話 私はその場にしゃがみこみ、鞄の中を探った。明日会えたら渡すつもりだったけど、今この場にいるから頼んでしまおう。あ、でも邪魔になるかな。 私が鞄から取り出したものを見て、古泉くんはきょとんと目を丸めた。 「それは…?」 「えーっと、アンケート用紙。うちのクラスがね、アンケート発表とかいうのをやるんだよね。それで、9組にこれを頼むの忘れてて。古泉くん、頼んでもいいかな?」 岡部先生が考えたくだらない(と言ったら失礼にあたるか)質問たちが綴られたアンケート用紙を見せると、古泉くんはすっとそれを取り、文字列に視線を向けた。 読んでいるようだけど、随分読むのが早い。古泉くんが紙を持って真面目な顔をしてみていると、様になるなあ。これだから美形は…あ、愚痴っぽくなってしまった。 「…いい?」 読み続けている古泉くんに問いかけると、古泉くんは顔を上げて、「ええ、構いませんよ。お任せください」と笑う。 「それにしても、面白いですね。『スライサーで指を切ったことがある』…二択制ですか」 「ごめんねものすごく理解不能な内容で。先生が考えたやつなんだよ」 だから役員である私が考えたなんて思わないでね。 と言い掛けた口を閉じて、古泉くんの言葉を待った。古泉くんにとってはこのアンケートは『面白い』ものだったらしい。まあ、つまらないと嫌な顔をされるよりはずっといい。 「意外に長いんですね」 「お手間を取らせて申し訳ない」 ちょっとかしこまった言い方で返せば、古泉くんはいえいえと首を振った。そうなのだ。このアンケート、なかなか質問の量が多い。だからこそ私たち集計する役員の仕事も多いということなのだけど。岡部先生も、考えてくれるのはいいにせよ、もう少し減らすことはできなかったのか。減らさなかった私たちも悪いのか。 「恋の質問、ですか」 古泉くんが苦笑した。その単語に私はぴっと顔を上げて、古泉くんを見上げる。これだけ顔がよかったら恋愛体験のひとつやふたつ軽くこなしていそうだよなあ。 「古泉くんの恋愛話とか聞いてみたいなあ」 「………興味がおありですか?」 「うーん、まあ。言いたくないことだったらいいよ」 無理に言わせるのも心苦しい。 古泉くんはくすくすと笑って、「今日はもうあまり時間が無いので、また今度でも」と言ってアンケート用紙を鞄にしまった。9組の生徒分の紙を折らないように丁寧に入れる動作がとても綺麗で、思わず見惚れる。指、長いなあ。羨ましい。あれだけ長かったらピアノだってらくらく弾けるだろうに。 「彼から連絡はありませんか?」 「……無いなあ。私からメールしてみようか」 携帯を取り出し、簡潔にメールを打った。そのまま古泉くんと並んで下駄箱まで降りる。極端に生徒の減った校舎の中は静かで、とても心地良い。メールが返って来るのとほぼ同時に、足音の反響する廊下の向こうで誰かの足音が響いた。 前*次# [戻る] |