馬鹿正直者
そういえば、と国木田が急に話を切り出した。
ぼうっと窓を見ていた俺は国木田に慌てて視線を戻して、話の続きを待つ。手に持っていた資料をガサガサと探っているらしい国木田が、あったあったと呟きながら紙の束を取り出す。
「それ…」
「うん、一年五組のアンケート紙だよ。今日集計したから」
それがどうしたんだ。
国木田は微笑みながら、紙をパタパタと左右に動かした。何をするつもりだと言うのだろうか。しかしその紙、プライベートがバレバレだな。質問自体はさして気になるようなものではないが、「この人こんな人だったんだ」みたいに、人となりがなんとなくわかるような質問なので、役員からしてみれば知らなかったあの人の一面がわかる、そんな感じだろうか。
「いやあ、ちょっと役員になってよかった、って思ったよ。皆の普段はわからないこととかがわかるからね。岡部先生の考えた質問だし、これが何だ?って思っていたけど、面白かったかな」
「待て……、てことは、お前は俺のアンケートも」
「バッチリ見たよ。いやあキョン、君、ちょっとかわいいところがあるじゃないか。『昔はリコーダーをうまく吹くことができなかった』の質問、『はい』になってるね」
「……………」
馬鹿正直に答えすぎだよ、と国木田が笑いながら辛らつなことを言った。仕方ないだろう、向けられた質問に正直に答えてしまうのは人間の常だ。俺は嘘を言うことはあまり好きじゃないからな。
「谷口なんてお笑いだったね、『犬の糞を踏んでしまったことがある』『はい』、『好きな女の子にふられて泣いたことがある』『はい』…谷口も谷口で馬鹿正直すぎるんだけど」
「はは……」
谷口についてはもう何も言えんな。ちなみに俺はどちらもいいえだ。犬の糞を踏むなんてベタなマネはしたことが無いし、女の子に告白なんてそれこそまた夢の夢だ。それからふられて泣くなどと、考えたことも無い世界で。
いやに達観した眼差しでアンケート紙を見ている国木田を見ると、役員を任せてよかったかな、と思う。谷口のことは言っても、他の人間のアンケート結果までは軽々口にするようなやつじゃないしな。それは名前も同様だが。
「でも、僕、びっくりしたよ」
「何がだ?」
「うん、まあ、こっちの話」
なんだよ。
気になるじゃないか、と問いかけようとして、まるでそれを遮るかのように震えた携帯を取り出す。中途半端に開いた口をとりあえず閉じた。
新着メール一件。送信元は名前だった。
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