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入れ違いの二人


ハルヒはとにかく滅茶苦茶なことを言うと、「プロデューサーは忙しい」と言い解散を命じた。ようは、昨夜見た映画があまりにもつまらなかったのでもっといい映画を自分で作ってやる、という意味なのだろう。昨夜というあたりが突飛的行動を如実に表している。
たったそれだけの思いつきで、俺たちはこんなにも振り回されるのか。全く何と言えばいいのやら。つまりは大迷惑だ。
しかも、クラスの出し物よりこちらが優先と来た。俺はともかく、他の奴ら――長門、古泉、朝比奈さん、名前――はどうするというのだろう。
長門と朝比奈さんはどうだかわからないが、まだ細かいことの決まっていない古泉と手伝いが極端にいない名前には難しいんじゃないだろうか。
帰り支度をすませた長門が無言で部屋を出て行く。その背中を見送って、俺は朝比奈さんを見た。湯飲みを片付け終え、着替えようとしている。古泉の首根っこを掴んで外に出たはいいが、すぐに帰るわけにもいかないので、古泉の襟首から手を離して軽い溜息をついた。

「どうかされたのですか?」

「…いや、別に。じゃあ、俺はあいつを迎えに行くから」

いちいち言う必要も無いかとは思ったが口にして、古泉に背を向ける。何か言われるかと思って身構えていたが、特に不自然なことは言われなかった。ただ一言、名前さんによろしく、と言われただけで。


教室には鍵がかかっていた。
下校時間が近づいているから施錠されていてもおかしくはないのだが、あいつらがいないじゃないか。
うろうろと視線を彷徨わせていると、今にも廊下を曲がろうとする国木田の姿があった。

「国木田!」

思わず叫ぶ。国木田が立ち止まり、きょろりとあたりを見回して、視線を俺に定めた。遠目だったのでわからなかったのだろう、だがすぐに気付き、こちらにゆっくりと歩いてくる。

「キョンじゃないか。どうしたんだい?」

こちらも古泉とはまた違った意味で人畜無害な笑顔だ。共通して言えるのはどちらもなんとなく胡散臭いというところくらいだろうか。国木田のほうが古泉よかなんぼかましだが。

「いや、用事と言うか」

「苗字さん?ああ、さっき出て行ったよ。僕はてっきりキョンたちのところに行ったものだとばかり」

「え、マジか」

行き違いか?でも、通路は一本道だ。変に階段を上り下りしない限り絶対に対面するはず。まあどちらにせよ靴箱かどこかで会えるだろうと能天気に考え、国木田に視線を戻す。

「こんな時間までかかったのか」

「うん、これがまた、地味だけど大変なんだよね。本当、手伝いが欲しいくらいにさ。谷口は面倒臭いとか、バイトがあるとかで帰っちゃうし」

「…まあ、お疲れさん」

「キョンもね」

キョンもね、と言うのはどういう意味だろうか。ハルヒの傍若無人っぷりを考えた上での発言か。やはり国木田は深いところまで考えているな、と無駄に感心したりして、俺は施錠されたドアを見つめる。
夕日が零れ、教室の窓が赤く染まっていた。



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あきゅろす。
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