話相手
『――どうしたんですか、急に?』
電話向こうの声はいつもの通り穏やかで、俺がこんな事態に巻き込まれているなどは知らない、ゆったりしたトーンだった。
それでも俺から急に電話がかかってくることが珍しいのか、語尾上がりだ。若干不審そうでもある。
しかしどうしたと聞かれても、何も考えず電話をしてしまったものだから言い訳が浮かばない。ハルヒは当然NG、朝比奈さんもだめ、長門はこのたびの件でNGとなった、残るはこいつということになる。別に谷口や国木田でもよかったが、そもそもあいつらに電話すること自体があんまりないからな。
「いや、別に。これといって用事はないんだが」
結局、言い訳を口にすることもなく情けない事実が口を突いて出た。電話向こうでは少し何かを考えるように沈黙が下り、すぐにまた不思議そうな声を出される。
『……珍しいですね。本当に、何もないんですか?』
「ない。迷惑だったんなら切る」
『ああいえ、そんなつもりは。ただ、何の用事もないのにあなたが電話してくるなんて、滅多になかったでしょう』
「そうだな」
だが、こいつ相手なら少なくとも会話に困ることはない。俺が喋らなかったところで、聞いてもいないのにペラペラと話しだすやつだからな。沈黙が嫌いなのかと思うほどよく喋る。その内容はたいてい小難しい話だが。
『本当は、何かあったんでしょう?』
「…………ないさ」
ちょっと間を置いてしまったのは、正直まずかったと思わないでもない。
古泉は俺に聞こえるか聞こえないかの音量でため息をついたらしい。何を思ってそんなことをしたのかはわからないが、もしや呆れられているのか?
『……まあ、いいでしょう。こんなこと滅多にありませんからね、折角ですから何かお話でもしませんか』
「ああ、そうだな」
苦笑を浮かべながら時計を見る。既に、日付が変わる少し前だった。
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