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気の利かない話


恐らく信じていないのだろう、妙な間を置いて長門が答える。朝比奈さん(大)は表情を崩さず、毅然と長門を見返していた。

「用事も済みましたので、私はもう帰ります」

「え……、もうですか?」

「はい。話を聞いてくれてありがとう、キョンくん」

「…………」

いえ、だの何だのうまい切り返しはいくらでもあったのだろうが、俺の頭の中には何も浮かんでこなかった。
朝比奈さん(大)は魔法少女のように光って消えるとか、手品のように突然消えるとかそういうことは一切せず、ゆっくりと歩き去って行く。多分俺の視界から消えたところで、自分のあるべき時代へと戻るのだろう。
その背中をずっと見送って、見えなくなったところで長門に向き直る。長門は何かを待つように、じっとそこに立っていた。

「……俺たちも、帰るか」

「…………」

静かにこくん、と頭が垂れる。
長門が話を聞いてこないのは、恐らく朝比奈さん(大)が先ほど言っていたことが理由だろう。よくわからないが朝比奈さん(大)と長門はたびたびコンタクトを取っているようだし、二人の間で何か踏み込んではいけないところでも決めているのかもしれない。

「もう、飯は済ませたのか?」

「…………」

今度は首を横に。
場を和ませるべく出してみた話だが、これ以上繋げることもできず自分自身の首が締まる。一緒に食べようと言うこともできないし、買い物について行くのもこの流れでは変だ。

「……ちゃんと食べろよ」

結局それしか言うことができず、自分の気の利かなさにうんざりする。そんな俺の葛藤など露知らず、長門は静かに頷いた。



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あきゅろす。
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