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壁が消えたら


「目標座標確認、照合。残り二分」

長門(大)は俺たちに聞こえるか聞こえないか程度の声量で言った。恐らく俺たちに何か教えたくて言っているわけではない。独り言のようなものだろう。
朝倉と対峙したときにも見せた、ひどく冷静で落ち着いた顔。これを見るとなぜかひどく落ち着く。

「転移の際に人間の許容量を超える光量の閃光が走る。目を瞑ることを推奨する」

「わ、わかった」

朝比奈さん(大)も小さく頷き両手を軽く胸の前まで挙げる。目を覆うためだろう、と察して急いで俺も目を覆った。

「…………」

長門(大)は黙ったまま、自分の眼前を見つめている。かと思うと、おもむろにこちらを向いて薄く口を開いた。

「十秒前。用意を」

それには俺ではなく朝比奈さん(大)が答える。言葉ではなく頷きで。
俺は俺で、用意と言われてもすることがないので心の準備をしていた。ぱちぱちっ、と小さく電気が走るような音がして、朝比奈さん(大)が軽く俺の肩をたたく。あ、目を瞑らなければ、と思ってそうしたその瞬間、瞼越しにもよくわかる強烈な光が走った。

「……なにをしているの」

とりあえずいいよと言われるまで瞼は伏せたままでいよう、と目を瞑っていたのだが、聞き慣れた声がして反射で瞼を開いた。

「長門……」

先ほどまでいた長門(大)の姿は影も形もない。代わりに、いつもの制服姿の長門がそこに立っている。
朝比奈さん(大)はどうやら長門(大)は大丈夫だったものの、長門(小)はまだ苦手なようだ。びくびく、といった形容詞が似合いそうな小刻みな震えを俺たちに披露している。

「長門、さん……。お久しぶりです」

「…………」

まずは軽い挨拶からー、なんて緩いことをしている場合ではないのだろうが、震えがちな挨拶が朝比奈さん(大)の口から零れた。
長門は緊迫した表情(と言ってもいつもとほぼ変わらない無表情で、俺はそう見えただけだ)で俺たちを見ている。何の事情も知らない長門が、いきなりこんな妙な出来事に遭遇したらのんびりしていられるはずがない。
長門は確認するように俺と朝比奈さん(大)を見合ったあと、この場の代表と判断したのか朝比奈さん(大)へと視線を向けた。



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