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お礼を言う相手


脈拍が異常に上がるほど心配になっている俺をよそに、朝比奈さん(大)は涼しげな笑みを浮かべている。自分に課せられた運命をきれいに請け負ってみせる、とでも言いたげな笑みに見えた。

「大丈夫です」

「大丈夫じゃないでしょう!?」

「いえ、大丈夫なんです。さっきも言ったでしょ?“協力者と話をして”って」

「――え……」

そう言いながら朝比奈さん(大)は立ち上がり、俺の前へと歩み寄ってくる。朝比奈さん(大)の影が完全に俺を覆い尽くしたその瞬間、彼女の口元に笑みが浮かぶのが見えた。

「……ありがとうございます」

突然朝比奈さん(大)が頭を下げる。あまりにも唐突なそのお礼に驚きながら、なぜ自分に頭を下げているのか心底疑問を感じた。
何をしているのかと思いきや、俺の背後から「いい」と端的で淡白な言葉が吐かれる。

「え……!?」

振り返ると、長門がベンチの後ろに立っていた。暗くてあまりよくわからないが、珍しく私服を着ている。私服と言っても朝比奈さん(大)が着ているようなスーツ姿に近い。一体なぜそんな恰好をしているのか。
少しして朝比奈さん(大)が頭を上げ、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。どうやら先ほどの「ありがとうございます」は、俺ではなく長門に対してだったようだ。
いつからこいつが?いや、そもそも何の目的で?

「改めてご紹介します。キョンくん、彼女が――私の協力者よ」

「…………」

ゆっくり、長門がベンチの後ろからこちらに歩いてきた。足音がしない。朝比奈さん(大)の横に並んだ長門は、いつも見ている長門より少しだけ背が高いように見える。なんでこんなに短時間で成長したんだ、と思ったが、足元を見れば少し高いヒールの靴を履いていただけということがわかった。

「長門……」

「…………」

少しの沈黙の後、長門がこくんと頷く。なぜかはわからないが、長門が一瞬喜んだように見えた。まるで長い間会っていなかった旧友に会った時のような、ほんわりとした優しい雰囲気。
気のせいか、とぼんやり思っていたところで、朝比奈さん(大)が控えめに笑みを漏らす。

「キョンくん、気付いてません?」



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あきゅろす。
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