処分もの
もうすっかり周囲が暗くなって、吹く風も冷たくなってきた。朝比奈さん(大)はその風を心地よさそうに受けながら、優しく目を細めている。
「これで、私から言わなければならないことは終わり。後はキョンくん、あなたが行動するだけよ」
「…………」
茫然としてしまって、と言うか、何を始めればいいのかわからず半ば絶望して言葉が出ない。朝比奈さん(大)が俺の肩に軽く手を置き、何かをなだめるようにそっと動く。
でも、誰からもヒントすらもらえないのであればもう動くしかない。
吹っ切れるしかないのだ。とにかく自分にできることをやるしかない。ただ長門に頑張れと言っていた時期を思えば、俺が動いて何かが変わるだけやりがいがあるってもんじゃないか。
「……わかりました。出来る限り、頑張ります」
「……そうね。頑張って。キョンくん」
だんだんと騒がしかった動悸がおさまってきた。気付けば背中に汗もかいている。落ち着くと周囲の風の音や朝比奈さん(大)の呼吸の音もすっと耳に入ってくるようになって、自分以外のことも考えられるようになってきた。
自分以外のこと――そう、朝比奈さん(大)のことだ。本当のこと、と言ったのは恐らく本当だろう。彼女がここまで真摯に嘘を言うはずがない。
朝比奈さん(大)が本当のことを教えてくれたのは非常にありがたいが、それは本当に大丈夫なことなのか?
「朝比奈さん、さっきの……」
「ええ。罰則規定にあたります。私があなたに教えた全てのことは、本来ならば禁則事項ですから」
禁則事項に当たることは勝手に口から出ないようになっているのではなかったか?
「一時的にプログラムを改変しています。今の私に、禁則制限はかかっていません。機密事項だって言えちゃうんだから」
「それ……、大丈夫じゃないでしょう!?」
「うふ。ばれたら処分ものね」
そんな軽く言っていいのか、と思うほどふんわり朝比奈さん(大)は言いきった。今の朝比奈さん(大)の行動は誰にも見られていないのか?自分の行動や発言が組織にはばれないようになっているのか?いや、禁則制限を設けるくらいだ、そんなことはないだろう。
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