[携帯モード] [URL送信]
誰かが動けば


「ですから、私は私以外の未来人……接触を持とうとしてきた者にまず警戒してもらう必要があった。私は、名前ちゃんを殺す気なんてありませんし、そういった派閥にも属していませんから」

「でも、それなのに名前を攻撃したっていうことは、誰かから命令されたんじゃないんですか?」

「いいえ。独断です。一度協力者と話して、一芝居打つことにしました。……『昔馴染みとして、手を下すならば自分で』と発表したんです。許可を得てようやく、私の知る範囲の未来人が名前ちゃんに危害を加えることはなくなりました」

朝比奈さん(大)の言っていることは理解できるが、いろいろと腑に落ちない。そんなことをしたら、結局朝比奈さん(大)は自分の言ったことの責任を取らねばならず、名前を処分しなければならないのではないか?
しかしそれでは本末転倒だ。名前がこの世界からいなくなったために朝比奈さん(大)が直接どうこうすることはできなくなったが、何らかの形で処分を取らされる気がする。
といったことを簡単にまとめて問いかけると、朝比奈さん(大)は納得顔で俺をみた。それから少しだけ困ったような笑みを浮かべた後、静かな声で言う。

「…そうですね。何らかの形で私に処分が下るのは、間違いないと思います。でも、名前ちゃんに危害を加える必要はありません。ある時期を超えれば……」

「……ある時期、ですか?」

朝比奈さん(大)の話に聞き入っているせいか、全く外部の音が耳に入ってこない。風の音も、誰かが歩く音も、電車の音も。どこかしら必ず聞こえてくるであろう音声がいっさい聞こえてこない、それくらい俺は、彼女の話に耳を傾けていた。

「はい。それは、残念ですけど教えられません。私が動いても何も変わらないの」

じゃあ、誰が動けば変わるんですか。

「…………」

朝比奈さん(大)はまた何か困ったような笑みを浮かべる。いちたすいちの簡単な数式も解けない子に、仕方ないわねと言って優しげな視線を送る教師のような表情。実際彼女の着ている白いシャツにタイトスカートという組み合わせは教師に見えなくもない。
そんなくだらないことを考えている俺に、本当に仕方ないわねと言わんばかりに朝比奈さん(大)は告げた。

「あなたよ。キョンくん」



前*次#

3/400ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!