望む真実を
「……朝比奈さんにとっては、難しいことかもしれませんが」
「はい」
「本当のことを、話してくれませんか」
「…………」
きっと、それは無理だろうということはわかっていた。俺とは違って彼女は、制約というものに縛られている。いくら今の状態から昇格したとは言っても、恐らく彼女はまだ誰かの支配下にあるはずだ。禁則事項も当然ある。俺に容易く言ってはいけないこともたくさん存在するはず。
そう思ってのダメもとだったが、朝比奈さん(大)の口からこぼれた言葉は意外なものだった。
「はい」
「……え?」
自分で聞いておきながら、聞き返すとは一体どういうことだ。と、自問自答しながら焦る心臓を鎮める。朝比奈さん(大)は笑みを消し、今は静かにこちらを見つめていた。
「……あの、俺の言ったこと、ちゃんと理解してます……よね?」
「はい。キョンくんの望む真実を、私の口から説明します」
「その、いいんですか?俺に言っても」
「…………話すと決めたのは、私ですから」
いまいち回答になってはいないが、とにかく朝比奈さん(大)は俺に真実を話してくれるらしい。
どこか覚悟を決めたような顔で黙りこんだ朝比奈さん(大)に、俺は不謹慎ながらも喜びを感じていた。
しかし、どこか不安が残る。真実とは、そんなに簡単に言ってしまってもいいものなのだろうかと。周囲を見渡すが、いつもと変わりない風景だ。俺が普段立ち止まらないだけで、見慣れないが普段からそこにある風景。
こんな場所で、ぽろりと言ってしまっていいものだろうか?例えば朝倉に襲われたときのように、別の空間で……とかならともかく。
「大丈夫です」
ふと不安に駆られていた俺を安心させるように、殊更優しく朝比奈さん(大)が呟いた。
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