[携帯モード] [URL送信]
誘拐されたら


「…私が連れ去られたら、助けてね。キョン」

「悪い冗談はやめろ。ハルヒの言ったことだ、百パーセントないとは言い切れん」

「あはは、心配しすぎだよー。無いって無いって」

逆にお前がここまで何も心配してないと不安になるな。
一方のハルヒは田丸圭一さんをどんな役回りにさせたいというんだ。お前の勝手な願望であんな善良な人を悪人にするんじゃない。

「まずは泳ぎね。海に来たら泳ぐ以外の何もすることはないと言っても過言ではないわ。みんなでぱーっと泳いでいきましょ。誰が一番最初に潮にさらわれるか、勝負よ!」

やってもいいが考え物だな。誰か何があっても対処できそうな人間がいたらいいぞ。あ、長門がいるか。いや、ハルヒの前では超人的能力は使えないか。じゃあやっぱりだめだ。やらん。
ハルヒは朝比奈さんの肩を両手で掴むと、横にいた長門、足元にいた名前をもそれぞれ引き寄せ、にいい、と嫌な笑顔を浮かべる。

「水着よ水着。着替えてロビーに集合ね。うふふふひひひ。この娘たちの水着はあたしが選んであげたのよ。キョン、楽しみでしょ?」

「その通りだとも」

下手に言い返すと後々面倒なので、俺は胸を張って肯定した。名前がぶっと吹き出すが気にしない。俺は欲望に忠実だ。

「古泉くん、ここのプライベートビーチは貸し切りなんだったよね!」

「ええ、そうです。見物人は浜辺の貝殻くらいでしょう。人跡未踏の砂浜ですよ。ただし潮の流れは速いので、あまり沖合には出ない方がいいと言っておきましょう。先ほどの勝負が本気なのだと仮定しての話ですけど」

貝殻まで擬人化してしまう古泉の話術にはつくづく考えさせられるな。
ハルヒはふっと邪気の無い笑顔を浮かべたかと思うと、比較的手の届きやすい場所にいた名前の頭をうりうりと撫でながら言った。

「まっさか。冗談よ冗談。みくるちゃんなんかあっという間に黒潮に乗ってカツオのエサになっちゃいそうだもんね。みんな、いい?調子に乗って遠くまでいっちゃダメよ。あたしの目の届く範囲で遊びなさい」

生憎だがハルヒが保護者面をしたところで無駄に不安になるだけだ。そうだな、ならば俺が一番適任だろう。少なくとも朝比奈さんから二秒以上目を離さないようにしよう。

「そこ!キョン!ニマニマ顔は気持ち悪いからやめなさい。あんたはせいぜい半分口開けた仏頂面がお似合いよ。あんたにカメラは渡さないからね!」

それから朝比奈さん、名前、長門の肩に器用に腕を回し、笑顔を浮かべる。

「さあ、行くわよ!」





前*次#

14/50ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!