かわいい宇宙人
「心拍数が集合時より三.五上昇している」
「えっ」
有希の、消え入りそうな声が、船が水の上を滑る音に紛れて届いた。
本から顔を上げないところを見ると、そこまで重要な話だとは思えないんだけど。心拍数上昇って、なぜ。えーっと、興奮してるから?
「軽度の緊張状態に陥っているものと思われる。古泉一樹との接触後がピーク」
「…有希、もしかして話聞こえてた?」
ヒューマノイドインターフェースにはなんでもありだと思っていると、有希はかすかに本から視線を上げて、なんともいえない表情を向けてくる。それからちらりと、みくるちゃんを見ているキョンを見た。
「情報探知により記憶に蓄積はされているが、詳細までは認知しない。プライバシー」
「…あ、ありがとう」
聞かないでいてくれたのはうれしいんだけど、なんか照れくさいのはどうしてだろう。
「何か」
有希が呟く。顔を上げると、有希は本をパタンと閉じて私を見つめていた。液体ヘリウムというよりは、まるで溶かした飴みたいな綺麗な色をしている有希に、私は首を傾けて続きを促す。
「あった?」
続けて、有希が言い、首をことんと傾けた。
何かあった?って、もしかしてそれは、心配してくれているんだろうか。心拍数が上昇している理由を、私が話すのを待っているとか?
「…えっと、なんでもないの。古泉くんと秘密の話。皆を驚かせるためにも、有希も、内緒ね?」
「了解した」
あまりに素直に頷いてくれた有希に心の底から感謝しつつ、私はありがとう、と言った。
有希は「いい」と言ったきり、また本に視線を落とす。なんて可愛いんだこの子は、と頭を撫でてみれば、キョンが「何やってるんだお前は」と私の頭をかき回した。
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