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執事とメイド


「やあ、新川さん。お久しぶりです。森さんも。出迎えごくろうさまです。わざわざすみませんね」

俺は素面で「やあ」なんて言う人間を初めて見た。
フェリーから降りて約数メートル、その先に待ち構えていたのは世間の言葉を借りるならば「メイド」と「執事」だ。寸分狂いの無い、職業を完璧に連想させる服装…コスチュームとでも言うべきか?は、かっちりと着こなされている。

「ご紹介します。これから我々がお邪魔することになる館でお世話になるだろうお二人が、こちらの新川さんと森さんです。職業はそれぞれ執事と家政婦さん、ああ、まあそれは見ればわかりますか」

隣に立っていた名前が、やたらキラキラとした瞳を二人に向けていた。もしかするとこの二人も機関の人間ではないのだろうかと勘繰っていたところ、古泉がにこやかな顔はそのまま、声音だけ少し変えて「名前さん」と呼ぶ。はっと顔を上げた名前は、顔をひきしめてやや俺から離れた。なんだこれは。

「お待ちしておりました。執事の新川と申します」

「森園生です。家政婦をやっております。よろしくお願いします」

執事とメイドのお二方は、明朗に挨拶をしたかと思うときっちり頭を下げた。熟練した人間でなければここまでできないのではないか、と思うほどにだ。
朝比奈さんがやたら森さんに釘付けなのは、やはり自分の立場となんとなく被るところがあるからだろうか。

「それでは皆様」

新川さんの渋い声を皮切りに、俺たちは船へと足を運ぶ。何しろ孤島だからな、移動が面倒なのだ。
まあそんなに時間はかからないというのだから、ありがたく乗らせていただくことにする。文句があるなら泳いで行けとハルヒなら言いかねない。
怪しい館を妄想して一人で浮かれているハルヒをよそに、俺は一人挙動不審の名前に視線を送った。どうやら必死に表情を浮かべるのを抑えているらしい。ぴくぴくと頬肉が痙攣しているところを見ると…笑いを抑えているのだろうか?
まあ絶対何かがあるということはわかっているのだし、俺はそれに備えて心構えをすることにしよう。長門が今のところ静かに過ごしているのが、俺にとっての安全信号だった。



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