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彼女自身の意思


え、と思わず口から洩れた。

「……どういうことだ?」

「本日午前零時零分零秒、涼宮ハルヒとは別だが、類似した力を感知。そのコンマ二秒後に苗字名前の消失を確認。データベースから参照したが、その力にもっとも近しいと判断したのは、昨年五月に観測した苗字名前の情報創造能力だった」

ハルヒとよく似た力を持っている。それは、今ではほとんど忘れていたが一応覚えてはいた。その奇妙な力のせいで、あいつがこっちに来てしまったこととか。
だが、なぜそれを使ってあいつがこの世界から消えなければならない?あいつをこの世界に戻すことは可能なのか?それから、今あいつがいるのは?
聞きたいことはたくさんあった。それを聞こうとして口を開くが、何から言えばいいのかわからない。ぱくぱくと鯉のように口を開閉するしかできない俺を見上げながら、長門が冷静に続ける。

「今回の事象は、全て彼女の独断によるものと考えられる。よって、我々に「理由」の予測は不能。彼女をこの世界から抹消させる派閥や組織は存在したが、それらが彼女とコンタクトを取ったというデータはない。よって、脅迫関連による唯一断言できる事実は、」

ふ、と言葉が途切れた。一瞬の間を置いて、

「……この世界に、彼女の存在が感知できないということ。彼女は彼女自身の意思で、自らの世界に帰還したと考えられる」

「…………」

そんな。
頭の中に浮かんだのは、たったそれだけの言葉だ。
信じられなかった。あいつが、自分の意思で、この世界を脱する。そうすることの意味は?この世界から逃げ出したかったのか?
少なくとも俺は、何も言われなかった。そういう前兆もなかった。悩んでいる様子だって、なかった。
……いや。本当に、なかったか?何も?

「…………」

今考えれば、もしやあれが、と思うことならポロポロ出てくる。俺が、瑣末なことだと勝手に片づけて聞きもしなかった数々のこと。悩んでいたとしても、きっとそれを自分から言わなかっただろう。それはわかっていたのに。事実そうだったのに。

「どうすれば……」

「現段階での判断は危険。情報が非常に少ない」

「俺に、できることは」

「ない」



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あきゅろす。
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