今日の終わり
とりあえず部屋の中に放置し、しばらく放っておいたらなんとなく落ち着いた。時折そわそわと歩き回りはするものの、暴れ出す気配はない。
キョンの部屋にいるほうが落ち着いてるみたい、と名前が言ったので、今夜は俺の部屋で寝かせることにした。いつもならばベッドの上へ上がりすぐ丸まるのだが、今日はその気配がない。
「何があったんだ?」
もう喋ることはできなくなったというのに、前まで話しかけていた名残でつい声をかけた。何かを訴えるように視線を向けられるが、当然不思議な力が消失してしまったシャミセンが喋るはずはない。ふくふくと丸い頬、髭が揺れるだけだ。
「餌は食べさせたし、トイレもしたし……何があったんだろうね」
「こないだの阪中の事件でこいつに情報なんたらってやつを移動させたんだろ?それが原因……なんてことは」
長門はさほど問題視していなかったようだし、何も起きないだろうと俺も安心していたのだが。
「それはないと思うけど」
それを裏付けるように、名前がぽつりとつぶやいた。言った直後、しまった、と言わんばかりの表情を浮かべたが、言ってしまってはもう遅い。つまり、名前の知っている展開ではシャミセンがこんなに暴れることはなかったようだ。
「何かの病気なのかなぁ……」
喋らなくなってしまったシャミセンに体調を窺うのは難しい。というか、不可能だ。
それが解っているので、俺も若干不安になる。今すぐは無理だしまずは様子を見て、明日になってもこの様子であれば始業式が終わってからなんとかハルヒに頼み込んで、動物病院に連れて行ってみるべきか。
「今はどうしようもないしな、もう寝たらいいんじゃないか?」
「でも……、…………うん」
何か言いたげに唇を動かした名前だが、やはり今はどうしようもできないと判断したのだろう。寂しそうに俯き、シャミセンの頭を申し訳なさそうに撫でた。それから俺を見上げ、シャミセンをよろしくね、とつぶやく。
「たぶん大丈夫だから。そんな心配するな」
「うん……」
頭を軽く撫で、自室に戻させる。
「キョン、おやすみ」
扉が閉まる直前、名前が俺に言った。
その言葉が、俺が聞いた今日最後の言葉だ。
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