あなたのもの
出迎えた長門はどこか、途方に暮れたような表情をしていた。
……気がした。そう思ったのは、俺だけかもしれない。
「有希、返し忘れててごめんね。ありがとう」
「構わない」
わざわざマンションに入る手間を省くだめだろう、マンションの前で待っていた長門の指先はひどく白い。ただ、これは外で待っていて体が冷えたとかではなく、元来長門の色が白いからだろう。
「手冷たい。いつ頃から待ってたの?」
「あなたたちが来る二分十五秒前。問題ない。へいき」
必要ならば体感温度の調節は可能、と長門が呟いたが、それは俺が止めておいた。
せっかくここまで来たというのにすぐ帰るというのも申し訳ないが、用事もないのにタラタラとい続けていても迷惑なだけだろう。帰るぞ、と名前に声をかける。
「うん。……あの、ほんとにありがとね。おかげで温かかった」
「そう」
そっけない返事だが、俺も名前もそれに対して不快に思ったりはしない。むしろ返事があるだけいいもんだ、とすら思っている。
「じゃあまた、始業式にね。ばいばい」
「…………」
長門はコクリと、恐らくいつも一緒にいるSOS団メンバーでないとわからないくらいの微細な頷きをした後に、名前をすっと見返した。名前は俺の自転車の荷台にちょうど腰かけたところで、俺も軽く挨拶をして帰ろうとしたのだが。
「待って」
珍しくも、長門に呼び止められて動きが止まる。
ゆっくりと歩いてきた長門が、何かを訴えるように俺を見た。あれは何かを言いたいときの目。それを知っている俺は、長門の言葉を待つ。けれど長門は、ほんの少し唇を動かしただけで、何も言わなかった。
代わりに名前へ向き直り、手に持っていた手袋を差し出す。
「あなたのもの」
「え」
「あなたのもの」
どういうことだ。クリスマスプレゼントにしちゃ遅すぎるぜ、長門。
何やら状況を理解できていないらしい名前の手に手袋を強引に握らせ、長門は一歩下がった。どうやら、手袋をあげると言いたいらしい。名前もそれを察したようで、小首を傾げながらも「ありがとう」と言い、それを軽く握った。
「その手袋は、あなたのもの」
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