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聞こえた言葉


ハルヒに言われたことが頭の中に残っている。
帰り道、ぼうっとした表情で歩いている名前を横目で見ながら、何度も頭の中でハルヒの言葉を反芻していた。

「なんかもう春だねぇ……いや3月だから当たり前だけど……」

何やら独り言を言っているらしい名前をもう一度ちらりと見て、視線をそらす。
ハルヒに「ちゃんと見ていてあげて」と言われた手前、ヘタに放っておくこともできないし、俺自身なぜか嫌な予感がしていた。
名前がどこかに行ってしまいそうな気がしたのは、何も今が初めてではない。過去に数回あった。そのたび、気のせいであったり実際にちょっとした問題に発展したりということはあったが、一応それなりに平和に乗り越えてきたのだ、俺は。

「なあ、名前」

「ん、なにー?」

こちらを見た名前の顔色が一瞬蒼白に見えてぞっとする。浮かべていた表情は笑顔だったのに、なぜか泣きそうに見えたのもたぶん俺の気のせいだろうがいやな心地だ。

「お前、今日……落ち込んでるか?」

「んん……?」

名前は俺を見上げ、何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情を浮かべた。というよりは、怪訝な表情か。

「落ち込んでるように見えたの?」

「落ち込んでるというか、何か考えているというか……ということを、ハルヒが言っててな」

「ハルヒが?」

ふーん、とどこか気のない返事。やはりハルヒの気のせいだったのだと思い、思わず苦笑が漏れそうになったところで名前が俺から視線をそらした。
既に暗くなっている空を見上げ、どこかさみしそうに笑っている。

「そっか、ハルヒが……」

遠い地にいる娘を思う母のような口調でそうつぶやく名前。
一瞬髪の毛で口元が隠れ、まだ何か言っていたようだがその言葉をほとんど聞き取ることができなかった。

「とりあえずさ、帰ろっか」

ハルヒは、すごいなぁ。そう言ったような気がした。



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あきゅろす。
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