過去のこと:彼女
「目が覚めたらね、お母さんがいたの」
いつだっただろうか、そう言ったことがある。キョンがどんな表情をしているのか知りたいようで知りたくなくて、顔を見ないまま話した。
「遅刻するから急ぎなさいって言われて急いで制服を着るんだけど、北高のじゃなくて、通ってた学校のものなんだよね」
着慣れたはずのその制服はひどく違和感に満ちていて、夢の中だというのに着るのをてこずったことも覚えている。あんなに長い坂などなく、平坦な場所に建っている学校に走りながら向かったことも。
「学校も、北高じゃなくて普通の学校。通ってたところ。教室に行ったら友達がいて、挨拶をして、席に着くの」
起立、気をつけ、礼、おはようございます。
挨拶しながら見渡せば、後ろの席も横の席も、以前のクラスメイトたち。窓際に視線をやって、そこに黄色いカチューシャと、気だるげな顔がなかったことに気付いた瞬間、目が覚めた。
「……キョンも、ハルヒも、皆いなかった」
国木田くんだって、谷口くんだって。皆、皆いなかった。
その夢を見た日には、寝なおすこともできなかったこと、黙っている。
そんな夢を見たのだ、いつだったか。
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