お時間いただきます
船が揺られている間、勿論俺たちは手持ち無沙汰も甚だしいものであり、古泉が持参したレトロなゲームにいそしんだり、話をしたり、そんなことで時間を潰した。
トランプゲームに全敗した古泉が買ってきたジュースを飲みつつ、俺は名前に視線を送る。どこを見ているのかはわからないが、ぼーっと一点を見ているようだった。
「何見てんだ?」
「うん?あ、いや。海なんて久しぶりだな、と思って」
「そうか。どうだ、久しぶりの海は」
名前の顔に浮かんでいるのは、感動でも落胆でもない。ただ、ありのままの事実を受け止め、「そうなのか」と納得しているような感じだった。俺にはうまく説明できんが、なんとなく軽々しく口にしていい話題じゃなさそうだ。
「………涼しそうだね。すごく」
「…そうか。酔ったら、言えよ」
これ以上は詮索するなと空気が語っているような雰囲気に、早々口を閉じることにした。
進むフェリーのデッキにハルヒと朝比奈さんが出、俺と古泉と名前と長門、というある意味異色グループが残る。
かと、思っていると。
「すみません、名前さん。お時間宜しいでしょうか?」
「え?うん、いいよ」
恭しく古泉が頭を下げた。
名前が立ち上がり、歩き出す古泉の背を追いかける。おい、何をするつもりだ。俺はできる限りの眼光を持って古泉の後ろ頭を睨みつけてみたが、たいした成果は得られず名前が手を振るだけに終わる。
まあいいさ。何かあれば長門が言うはずだ。俺はじっと単行本を見つめる長門の横顔を見ながら、短く息を吐いた。
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