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怪しい川


ハルヒがそう言いながら、再び周囲を見渡した。本当に何も変なものはない、怪しい気配すらない。けれど、ルソーは進むことを嫌がり、ふんふんと悲しげに鳴く。これはやはり、何かあると思うのが自然だろう。自分の家の犬だけならともかく他の家の犬ともなると、幽霊なんて突飛な考えになってしまうのもうなずける気がする。

「いつもはここをまっすぐ行って、土手の階段を上って川沿いを歩いて、しばらく歩いたらまた下りて家に帰るっていうコースだったのね。だけど、一週間前からルソーが川に近づかなくなっちゃって」

川沿い。
新たに出てきたキーワードを頭に覚え込ませながら、ちらりと視線を横に流した。名前はどこか遠くを見ており、何を考えているのかわからない。長門は一応こちらに視線を向けてはいるものの、頭の中では何を考えているのか全くわからなかった。
ただ古泉だけが、ルソーにもハルヒにも視線を向けず、自分の手元の地図へ真剣なまなざしを注いでいる。途中経過を聞いてもさっぱりわからんから、あいつから喋り出すのを待っておこう。

「そんなら、川が怪しいわね。もしかしたら、危ないモノでも流れているのかもしれないわ。それとも川の根っこの部分に何か怪しいモノがあるのかもね」

心底真面目な顔をしているが、ふざけているのはわかっている。あの川を辿って行けば、ちょうど俺たちの通学路にぶち当たるからな。何も怪しいものはないし、何か危険なものを最近見かけた覚えもない。

「でも、川でももっと上の方とか、下の…下流のほうなら普通に散歩できるみたいなのね。散歩仲間から聞いたから」

「そうなの?」

なら、一概に川だけが怪しいとも言いきれんな。

「じゃあさ、J・J。ここが怪しいってところまで案内してちょうだいよ。それで、ここ掘れワンワンしてくれたら言うことないわ」

犬相手に何を要望しているんだお前は、と脳内突っ込みをするが、ハルヒにそれがとどくはずもない。
ルソーは元気の良いハルヒの声に耳をぴくぴくと反応させただけで、そこから動こうとはしなかった。きゅーん、と切なげに鳴かれて俺としてはもうこのまま引き上げてしまいたいのだが。
阪中も同じ気持ちだったのか、体を突っ張るルソーを抱き上げ悲しそうに笑った。本当にルソーを大事にしているようだ。

「強引に連れて行く必要はありませんよ」

そこで、ようやくと言っていいタイミングで古泉が口を挟んできた。例の地図をぴらぴらと振りながら俺たちに見せてくる。
俺には説明されても大してよくわからんから、全部頼むぜ。



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あきゅろす。
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