幽霊ポイント
その後、待っている最中に阪中母と対面したり、恐縮したり、和んだりをしていたが、普段着に着替えた阪中の登場により散歩に出かけることとなった。
「行くわよ、J・J!」
コロコロとニックネームが変わっているが、まあ根本的には変わっていないのでOKなのだろう。ハルヒがルソーのリードを持ち、元気よく飛び出す。
普通犬は飼い主に手綱を握られてついていくものなのだろうが、ルソーはリードを持っているのがハルヒでも阪中でもいいらしい。とにかく散歩できるのが嬉しいのか、わふわふ言いながら駆けまわっている。
「あっ、涼宮さん、散歩コースはそっちじゃないのね。こっちこっちー」
勢いよく飛び出したわりには阪中の声にすぐ反応するあたり、ハルヒも変わってきたよな。
ルソーと同じように駆け寄ってくるハルヒを見ながらそんなことを考える。しばらくはハルヒが手綱を握っていたが、任せていても散歩がうまくいかないと思ったのか、阪中が途中交代した。
その様子を後ろから眺めていると、視界の端で古泉がゴソゴソ動く。気になって視線を横に滑らせれば、古泉が地図を見ているところだった。
「そんなもん見て、どうするんだ?観光名所を探してるわけじゃないだろ」
「いえ、なに。犬たちが嫌がる場所を探してみようと思いましてね。隅々まで動かなくとも、地図上であらかたの位置は確認できるでしょうし」
嬉々として地図を見ている古泉は、さすが特進と思わざるを得ない。図形とかなんとかを見るのは俺向きじゃないんだ。任せるぜ。
しかし、散歩を心から楽しんでいるらしいルソーと、それを楽しそうに見ている女子たちを見ていたら犬を飼いたくなってきた。ルソーのような高級犬である必要はない、普通に雑種とかでいいんだ。まあ実際に飼ったら飼ったで大変だろうがな。というかそもそもうちにはシャミセンがいるから、実現は難しいかもしれない。
「あ……」
そんなことをつらつら考えていると、名前が小さな声を上げた。それに気付いて視線を向けると、たった今まで元気に駆けずり回っていたはずのルソーが元気なさげに伏せている。伏せているというよりは、これ以上進まないように全身に力を込めているのだろう。
くぅーん、と心細げな声をあげられてしまえば、飼い主でなくともこれ以上は、という気持ちになる。当の阪中は、困ったとでも言いたげな表情で小さくつぶやいた。
「やっぱり、ここで止まっちゃうのね」
ということは、ここが例の幽霊(?)ポイントか。
立ち止まったハルヒがくるりと周囲を見渡す。俺もつられて見渡したが、特に変わったところは見られない。
「へぇ。パッと見、変なところは見当たらないけど」
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