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犬の手渡し


「かわいい……!」

主に動物に弱い名前は当然ながらメロメロで、お座りをしながら丸っこい瞳を自分に向けているルソーを熱心に見返している。

「かわいいですねぇ……あのぅ、抱っこしてもいいですか?」

「いいよ」

同じくかわいらしいものに弱い朝比奈さんが、おずおずと申し出た。阪中の許可が下りると同時にしゃがみ込み、ルソーを抱き上げる。白い毛玉と朝比奈さん、映像的には実にイイ。個人的に言うと、名前のほうが良かったが、なんてことはまあ黙っておこう。

「ふぅん、これがルソー?白い毛玉みたいね。なんて犬なの?」

はからずもハルヒと同じようなことを考えてしまった自分に複雑な気持ちになりつつ、阪中へ視線を移した。ぱ、と阪中が答えようとしたところで、先に古泉が口を開く。

「ウェストハイランドホワイトテリアですね」

覚えるのが少し面倒そうな長い名前は、ルソーの犬種なのだろう。こんなちまっこいナリをして、正式名称がここまで長いと微妙に釣り合わない感じがするな。まあ、名前で高級感はよく出ているが。

「よく知ってるね。かわいいでしょ」

「うん、ほんとに!」

大好きな食べ物を目の前にしたとき以上に嬉しそうな顔をした名前が、阪中の言葉に反応する。それを見た朝比奈さんが申し訳なさそうに、ルソーを名前へ譲渡した。

「はい、抱っこしてあげてください」

「あ……、ありがとう!」

助産婦さんが母親に生まれたての子供を渡すような慎重さでルソーが名前へ渡される。もふもふふわふわの生き物が嬉しそうに名前の頬を舐め、羨ましいと思うべきか憎いと思うべきかどっちかわからなくなった。

「ちょっと名前、あたしにも遊ばせてよ」

「うあ、はい」

名残惜しそうな表情の名前が、またも慎重な手つきでハルヒにルソーを渡す。なんだこのバケツリレー。



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あきゅろす。
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