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白い毛玉


「準備万端ねっ!」

開いた扉の向こう側から、満面の笑みを浮かべたハルヒがやってくる。
そのハルヒに押されるようにして出た朝比奈さんは、顔を真っ赤にして俯いていた。後ろから出てきた阪中が、「何もそこまでしなくても」と言いたげな表情を浮かべている。口に出さないあたりは賢明だな。

「これでオッケーよ、みくるちゃん。とってもいい感じだわ。これならどんな悪霊が出たって、一発で昇天よ」

ただの巫女ではなく朝比奈さんだからな、そりゃどんな悪霊でも成仏するかもしれん。ってそんな与太話はどうでもいい。

「じゃ、行きましょう!」

制服姿の集団に一人巫女装束の女生徒が混じった謎の面子で、阪中の家へ向かうことになった。誰がどの位置に立とうとも、朝比奈さんを庇おうとも、眼を引く白と赤のコントラストは隠せない。道中、嫌と言うほど視線を浴びた。

「ううう……」

切なげな声を出す朝比奈さんには申し訳ないが、俺にはどうすることもできない。ここで制服の上着を貸しても、袴の色は隠せないわけだし。
公共交通機関を乗り継いで数十分、辿りついた阪中宅は、まごうことなき高級住宅だった。俺の家がサンマならばこの家は鯛か、と思うくらいのレベルだ。人さまの家と自分の家を比べること自体馬鹿らしいことだが、思わず比べてしまうくらいにはデカい。

「犬は?外飼いじゃないの?」

「もうすぐなのね」

てっきり庭で離し飼いとかそんなものかと思っていたが、そういうわけではないらしい。扉につけられた三つの鍵(そこからして既に高級らしさが伝わるだろう)を外し、扉を開けた阪中が、俺たちを見て「こっち」とつぶやいた。

「わわんっ!」

とたん、耳に入り込んでくるかわいらしい鳴き声。
扉の隙間からこちらへ突進してきたのは、白い毛玉だった。阪中の足に一通りじゃれついたかと思えば、今度は名前の足にじゃれついている。どこからどう見ても血統書のついていそうな小型犬だ。

「ルソー、お座り」

名前の足にじゃれついて離れない小型犬、もといルソーを見た阪中が声をかけた。ルソーはぴくりと耳を動かし、その場に座り込む。躾まで行きとどいているとは。



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