ふさわしい衣装
今まで皆の会話をじっと聞いていた朝比奈さんが、ふいに声を上げた。
「あっ、それなら、着替えないと……」
そういえばこの方はメイド姿なんだった。あまりに毎日見過ぎてむしろそれが自然な形、と覚えてしまったせいで違和感も何も感じない。しかし世間一般に見ればやはり朝比奈さんのその格好は注目されるべきものなので、着替えて行くのが妥当だろう。
しかしハルヒがそれを許さないのでは、この恰好のまま無理に引きずって行くのでは、と不安に思っていたところで、ハルヒが優しくこう言った。
「そうね、みくるちゃん。着替えないといけないわ」
なんと。どういう風の吹き回しか、ハルヒが朝比奈さんの着替えを許可した。言った当人であるというのに驚いている朝比奈さんが、一拍遅れて嬉しそうに笑う。余程あの服を脱ぎたかったのだろう。
名前は少し前から理由をつけて教師姿をやめているので(うまいこと言ってハルヒを納得させていた)、着替えるのは朝比奈さんだけだ。
「で、ですよね。それじゃあ……」
カチューシャに朝比奈さんが手をかけたところで、俺が椅子から立ち上がる。古泉も伴って部室を出ようとしたが、それはハルヒの声に阻まれた。
「でも、みくるちゃんが着るのは制服じゃないのよ」
「ふぇ?」
ぱっ、と立ち上がったハルヒが、つかつかとハンガーラックに歩いて行く。その中からツートーンのとある衣装を取り出すと、その服を右手に持ち、こちらへ向いた。
「制服は今から行くところにふさわしくないわ。幽霊退治って言ったら、これでしょう」
「えっ、えっ……」
赤と白しか色のない、日本古式のその衣装は。
「巫女さんよ、巫女さん。お祓いにはこれが一番よ」
うわあ、と思ったが、もう着せる気でいるらしいハルヒには何を言っても通用しない。さて、メイド服と巫女装束のどちらが注目を浴びなくて済むのだろうか、とどうでもいいことを考えながら、俺は部室を出ることにした。
「本当は名前にも着せたかったんだけど、サイズでちょっと値段も変わるし、これ結構高いのよね。だから、あんたには戦闘服っぽいのを着てもらおうかと思ってるんだけど」
「えっ」
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