新たな依頼人
「しかし、お前はまた懐かしいものを出してきたな」
ちらりと視線を横に流せば、一人オセロを黙々と続ける古泉。そういう遊び方があるというのは知っていたが、はたから見ているとどこか切ない気持ちになるな。
「ええ、そろそろ僕たちが出会って一周年ですからね。ここいらで原点回帰するのも悪くないと思いまして」
原点回帰、ね。
そんなたいそうな言葉を吐けるほど人生長く生きちゃいないが、いつか言ってみたいとは思うセリフだ。
向かい側に座っていた名前がちらりと顔を上げ、何かを考えるように俺を見た後、ぱくぱくと口を開いてゆっくり閉じる。出会って一周年、その言葉にでも何か引っかかったのだろう。
そうか、もうそんなになるのか。毎日の密度が濃すぎて時間の流れが異常に早く感じた。親戚の兄さんなんかは高校って時間過ぎるのが早いよ、などとよく言うが、本当にその通りだ。先人の言うことに大抵間違いはないな。
そんなことを考えていると、ふいに部室の扉がノックされた。今部室の中にいるのは、SOS団全員。欠けることなく揃っている。
「……お客さん?」
片付けをしていた朝比奈さんより早く、名前が反応した。読んでいた本を閉じて椅子から立ち上がり、ぱたぱたと軽い足音を鳴らせて入口に向かう。扉を開いて、あっと小さな声を上げた。
「坂中さん……」
ぺこりと頭を下げて俺たちを見た坂中――五組のクラスメイトだ。そいつが、何か神妙な表情を浮かべたまま俯いた。名前が坂中を部室に入れ、椅子に座らせる。先ほどまで大真面目な顔してふざけたサイトでも覗いていたのであろうハルヒも、真剣な表情で坂中を見た。用事がないのにこんなところに来るほど坂中は俺やハルヒ、名前と仲が良くはないし、坂中はこんなふざけた団に用事があるような事情を背負っているようには見えない。
「あの、お茶、どうぞ」
急いでお茶を用意した朝比奈さんが、坂中の元へ湯呑を置く。それにぺこりと頭を下げた坂中へ、今度は名前が声をかける。
「ねえ、今日はどうしたの?」
「…………」
坂中がためらうように名前を見た後、何かを決意したようにハルヒを見た。そして一言。
「……家の近くに、幽霊が出るって噂の場所があるの。それを調べてほしいのね」
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