サプライズ弁当
SOS団の活動にかまけてばかりで、このままでは赤点は免れないという期末テスト。とにかく名前にヤバイところは叩き込んでもらうという寸法で、どうにか全教科赤点は免れた。ギリギリだったが。
ところが当日本番になり全てが吹っ飛んでしまったものだけは赤点だった――赤点。口にもしたくない言葉だ。折角教えてくれた名前には悪いが、こればかりは仕方ない。来る補習のことを考えてふっと意識が飛びそうになる。
朝比奈さんのお茶を飲みながら、名前に視線を送る。
弁当を広げていた。俺がハムパンなのに対して、どうやら手作りのようだ。オフクロが「今日は寝坊して作れなかった」と言っていたのを思い出す。ということは、あいつが作ったのか?
「はい、キョン」
「え、」
突然目の前に差し出された箸と弁当箱、おまけに笑顔の名前を交互に見て、俺は目をぱちくりさせる。
「おばさんが寝坊してたから、急いで作ったの。だから手抜きにも程があるけどね。ハムパンよりは栄養あるよ」
「わ、悪い」
予想していなかった事態に、俺は慌てつつも冷静に受け取る。名前の作った料理。オフクロと料理をしている姿から、まあ変なものは出ないだろうと予想して中を覗き込めば、手抜きとは到底思えない卵焼き、ウインナーとインゲンマメの炒め物、キャベツのサラダ、三色ご飯が目に入る。
「わあ、おいしそう」
俺の真正面から朝比奈さんが声をかけてきた。「みくるちゃんのほうがおいしそう」そう言って実にものめずらしそうな表情を浮かべる名前に視線を送り、古泉も羨ましそうに呟く。
「実においしそうですね。僕もいただきたいものです」
「あ、じゃあ食べる?」
朝比奈さんと古泉に自分の弁当を差し出す名前を見ながら、俺は自分の弁当を人に与えてやるつもりはさらさら無いので、ありがたく頂戴した。
うまい。パサパサとしたオフクロの甘い卵焼きとは違った、口の中でふんわりと広がるダシ巻き卵。
「…おいしい…。名前ちゃん、お料理上手です」
「そうですね、とてもお上手です。僕にも作っていただきたいほどだ」
古泉、最後の一文はいらん。
名前は照れくさそうに頭をかき、自分のぶんを食べ始めた。
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