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条件ひとつ


「……文芸部休止は撤回だ」

ハルヒがその言葉に、きょとんと眼を丸めた。事の次第をそう理解してはいないだろうに、とりあえず会長が処分を軟化させたことに驚いているらしい。その表情を見て、会長はフン、とでも言いたげに唇を歪ませた。が、すぐに真顔になる。

「しかし、活動していないことは問題になる」

だいぶ劣勢に回っただろうに、涼しい表情を崩さないあたりこの会長なかなかすごい人物なのかもしれない。きりりとつり上がった眉と切れ長の目、見た目だけは非常にハンサムだが、それが余計に鋭さを強調する材料になった。

「改めて処分を言い渡そう。早急に、文芸部としてそれらしい活動をしたまえ」

ほう、そんなことでいいのか。
会長の言う文芸部らしさがよくわからんが、とりあえず皆で本を読みゃいいのか、と思っていたら、まるで脳内を読んだのかと聞きたくなるタイミングで会長が口を開く。

「だが、皆で読書会を開いたり、課題図書の感想文を書くなどという真似は認めない。目に見える形で活動したまえ」

「本を読む以外で文芸部らしい活動ってどういうもんなの?」

ハルヒが振り返って俺たちに聞いてくる。知らん、俺じゃなくて長門に聞け。辞書なみの返答をしてくれるだろうよ。

「簡潔に言おう。条件はただ一つ、機関誌を作ることだ」

「機関誌?」

「そうだ。歴代文芸部はたとえ部員が少なかろうとも、必ず毎年一冊は機関誌を発行していたと記録に残っている。目に見える活動として、一番解りやすいだろう」

なるほど確かに。そういえば、部室にいくらかそんなものがあったっけか。興味のないジャンルだし、そもそもそんなところに着目したこともなかったから、部室に戻ったら見てみよう。
機関誌を出す――つまり、小説とか、話を書く。そのワードに、いつかの長門の顔を思い出した。変わってしまった世界の中、あいつは一人文芸部室の中でひっそり小説を書いていたのだろう。あまり思い出したくないことだ。
ぶんぶんと頭を振ってその考えを散らしていると、どう取られたのか会長がこちらを見て鋭い目つきをした。

「不服かね。これでも譲歩しているほうだ。そもそも、文化祭のときに言うべきだったことをここまで引き延ばしてきたのだから、多少は私にも恩義を感じてほしい。まあ、私以外の人間であれば、永遠にキミたちを放っておいたかもしれないが」

放っておいてほしかった気しかしないけどな。



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あきゅろす。
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