ネコかライオン
そのまましばらくハルヒと会長が言いあいになり、俺たちは何のためにここにいるんだろうと自問自答する程度には疎外感に苛まれていた。いや、寧ろ疎外感まみれでいいからここはハルヒにすべてを任せて帰りたい。誰も見ていない今ならこっそり名前を連れて帰っても何の問題もないのではなかろうか、と思いちらりと視線を会長たちからずらしたところで、ふと視界に入る人がいた。
「…………!」
もはや書きとめるほどの内容を喋っているとも思えないのか、手を止めて会長とハルヒの会話を聞いているだけの書記。先ほどまでは逆行でろくに顔も見えなかったが、今はいくらか室内が薄暗くなったので、その顔が見える。
その人物はこちらを見て、にこりとほほ笑み会釈をした。つられて会釈をしたところで、会長がそれに気付いてこちらを見てくる。
「ああ、紹介が遅れたな。彼女は我が生徒会の書記をやってくれている、喜緑江美里くんだ」
俺と古泉は驚いたが、長門は無表情だったし、名前は知っていたようでそれほど驚きもしない。ハルヒに至っては会長の紹介が聞こえなかったのか、それとも自分の大声で聞きもらしたのかは知らないが会長にまだ喰ってかかっていた。
しかしなぜこんなところに喜緑さんが。十二月の一件でお世話になったものの、生徒会にいるだなんて聞いてないぞ。
「とりあえずハルヒ、落ちついて。さっき話は一応ひと段落ついたの」
場が混乱しかけた時、まとめようと思ったのか名前が声を出した。ふーふーと子猫を取られた親猫のように興奮していたハルヒが、その言葉でこちらを見る。俺の言葉なら問答無用で無視しただろうが、名前の言葉ならこいつはしっかり聞くからな。面倒なやつだ。
「ひと段落って何よ」
「今から最終的な処分を言い渡すところだったのだ。キミが入って来さえしなければ、落ちついて話ができたんだがな」
「もとはと言えばあんたが!」
「ハルヒ、いいから落ちついて」
子猫を取られた親猫はちょっとかわいすぎたな。獲物を取られそうになって牽制するライオンみたいだ、こいつ。
今にも唸り声を出しそうなハルヒが、名前のちょっと低めの声に動きを止めた。本当は今にも喰ってかかりたいのだろうが、会長が何かを言うまで待つ姿勢を取る。会長は小さくため息を吐き、わざとらしく眼鏡をかけ直した。
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