鈍いのか優しいのか
店の中に入って、私が仕事を終えるまで待って居てくれた古泉くん。山田さんが怖かったか、と問いかけると、彼はいとも簡単に「いいえ」と首を横に振ってみせた。
「彼が、どうかなされたのですか?少し大柄な方だとは思いましたが、恐怖までは…」
怖がったほうが良かったでしょうかとまで言った古泉くんに半ば呆れつつ、私は内心喜ぶ。
それにしても古泉くんは、思った以上に喧嘩が強かったな。そりゃ神人退治をしてるくらいだし、基礎体力は高いと思っていたけど。武術の心得があったなんて驚きだ。
「そりゃ、こんな身である以上、身を守る術がないと」
「それもそうだ」
納得しつつ鞄を肩に掛けなおした。バイトが終わった帰り道。逃げを許さない古泉くんが、家まで送るという名目のもと私を尋問しようとしている。
「それで、何故あんなところへ?」
「へ、や、古泉くんこそどうして?」
必死に話をそらそうとしても、古泉くんはニコニコ笑った姿勢を崩さないまま答えるだけ。
「僕はバイトの帰りですよ。近頃閉鎖空間の発生が非常に多発しておりまして。理由はもうわかっているのですが」
(………)
もしやその理由って。
と、言いかけた私に古泉くんはわざとゆっくり言葉を区切って呟く。
「自分に隠し事の類をされるのがお嫌いなようですよ、彼女は」
「……………」
やっぱばれてるか。
けど、こっちから言う気にはなれなかった。古泉くんが、きちんと言って欲しいという旨を口にしたら言おう。口を引き結ぶと、古泉くんが立ち止まる。
車のクラクションが遠くで響いていた。
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