本物?アドリブ?
と、イツキの行動をゆるやかに見守っていると、おもむろにイツキが動き出した。焦らしているのかただ単にとろいのかはっきりしてくれ、と言いたくなるようなスピードで、なんとミクルに近づいて行くではないか。
このままでは映画に登場するはずのない人物が乱入してイツキを蹴り飛ばすところだったが、それをするまでもなく、第三者が介入し、その動きを止めてくれた。
「待つがよい」
淡々、と棒読み、のちょうど境目の声音で静かにそう言ったのはユキだ。
イツキたちのいる部屋の窓から顔をのぞかせ、半ば身を乗り出している。そのまま転がり落ちるように室内に侵入し、何事もなかったかのようにまっすぐ立った。
「あなたの力はわたしとともにあって初めて有効性を持つものである。そのため、彼女を選ぶべきではない」
「えっ。それはどういうことですか?」
ユキもユキだがイツキもイツキで、勝手に侵入されたことに関してはもはや文句を言うそぶりすら見せないのだからいっそ異常だ。言葉尻をとらえて真剣な顔つきをするのはいいが、もう少し普通の人間のリアクションを取ったほうがいい。
「今は言うことができない。しかし、いずれ理解できる日が来るだろう」
だいたいそのあたりまで決められたセリフをしゃべって、
「あなたには選択肢が二つある。わたしの手を取ってともに宇宙をあるべき姿へと進行させるか、そこに寝ている彼女の手を取り、未来の可能性を摘み取るかの二つである」
このあたりからアドリブなのだが、いやに生々しい話になった、というか、一部の人間のみにやたらとリアルな話というか、とにかくまあそれは映画の中での話、から少しばかりはみ出ているようだった。
「なるほど、つまり彼……いえ、このシーンでは僕ですか。僕がその鍵となっているのですね。鍵そのものに効力はなく、あくまで扉を開けるだけのものですが、その扉を開けたとき、何かが変わるのでしょう。……変わるのは、おそらく…」
含みのある言い回しと、先ほどとは明らかに本気度の違う演技に思わず唾を飲み込むが、イツキはすぐににこりと微笑むと、ぱっとカメラから視線をそらす。
「わかりましたよ、ユキさん。ただ、今の僕には決定権がありません。結論は、保留ということでもよろしいでしょうか?結論を出すまでには、もう少し時間をいただきたいんです。あなたたちが真実を語ってくだされば、あるいは何かが変わるかもしれませんが」
映画の中の話だよな、と再三確認を取りたくなるようなことを口にして、イツキはふっと前髪を払った。
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