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誤った行動


「いったい、あんなところで何をしていたんです?」

水浴びをしていたように見えていたわけでもあるまいに、まるでミクルが自発的に湖に飛び込んだような物言いをするイツキに、けほけほと噎せながら、ミクルがゆっくり答えた。

「えっ、あっ、あの……そのう……悪い人に池にそのう……」

以前もあった気がするが、言ってもいいのか悪いのかと言わんばかりの躊躇っぷりだ。かと思えばミクルは、「うっ」とか細く唸ってその場に倒れ込んだ。地面にぶつかる寸前でイツキが抱きとめたが、そのイツキの腕の中でぐったりと弛緩する。台本ではここで気絶しなければならないことになっているから、この流れも当然なのだが腹立たしい。

「しっかりしてください」

そう思うならもうちょっと慌てたらどうだ、といったテンションでミクルに声をかけたイツキが、ミクルの意識がないと察するやいなやその小柄な体を抱えあげ、どこかに向かいだす。
普通、こういうときは救急車を呼ぶだの、周囲の家まで助けを呼びに行くだの、とにかく素人判断であれこれしないのが正しいはずなのだが、イツキは迷いのない歩調で歩き始めた。
どこへ?との疑問も当然だろう。驚くことに、イツキの家である。

そこでシーンが切り替わり、少し豪華な家の内部が映し出された。察するに、イツキの家なのだろう。ミクルを抱えたイツキが廊下を歩いている。
さて、ここでさらに疑問がひとつ。先ほどまでメイド服を着ていたはずのミクルが、今は少し大きめのロングTシャツを身にまとっているのだ。察するに、というか察したくはないのだが、シーンの流れ的にあれはイツキの服なのだろう。が、深く考えれば、いや深く考えなくともわかるが、ミクルはまだ気絶したままであり、自力でTシャツを身につけたとはずがないのである。おまけに風呂上がりっぽい風体になっているのも非常にいただけない。イツキの家にはイツキ以外に誰かがいる様子もうかがえず、意識のないミクルを風呂に入れたのが誰かなど、どう考えても一人にしか限られないわけで。もしこれが、イツキの幼馴染であるところの少女の手によるものであれば倫理的に良かったと思うのだが、残念ながらそのような描写はなく、またここに少女の姿もない。

「…………」

黙り込んでいるイツキが、一室の中心に置いてある布団にミクルを横たえた。
そしてその横に座り込み、陣取るようにあぐらをかく。眠っているミクルを観察するかのように見下ろしているその顔は何かを考えていそうにも見えた。が、たぶん特に何も考えちゃいないだろうな。



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あきゅろす。
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