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湖に落下


にじり寄ってくる三人の後ろで、ユキはひたすら<スターリングインフェルノ>をゆらゆらと動かしていた。とりあえずその杖から出ている電磁波だか念波だかで三人は操られているらしい。なんと卑怯な技を使うのか、ユキ。どうする、ミクル。

「ひっ、ひええぇ……」

演技なのか本気なのか、いや半ば本気なのだろう、大きな瞳に涙をにじませたミクルが、ぷるぷると震える。前門の虎に後門の狼とはまさにこのこと。前門の敵、後門の湖。
未来から来たからにはそういったものをなんとかできそうな技なりアイテムなり持っていても良いのだが、そこは都合よくいかないもので、あれよあれよという間に両手両足を掴まれたミクルは、盛大に湖に放り投げられてしまった。そのついでで男子高校生その一まで一緒に落ちていたが、何かの手違いだろう。たぶん自力で這い上がってくるだろうから、今のところは問題はない。問題があるのは、

「っ、ぶはあ。ひぃ、ふわぁっ……」

泳げないのか何なのか、その場でばしゃばしゃと水面をたたくことしかできないミクルだ。
湖にどれほどの生物がいるのかはわからないが、少なからず潜んでいるであろう魚が好奇心でミクルをつつきにくる可能性もないわけではない。ミクルには着実に危機が迫っている。
だがそこはヒロイン、きちんと救いのヒーローが来るわけである。

「どうしたんですか?」

せめてもうちょっと緊迫感を持てんのか、というのったりとした声音とスピードでやってきた、イツキだ。
相変わらず水面をたたくことしかできないミクルに爽やかに手を伸ばす。

「落ちついて、僕の手につかまってください。僕まで引き込まないようにね」

後半のセリフは若干非情な気もするが、確かにイツキの立場で考えるとそう思うのも仕方はないのだろう。ぐっとイツキの手をミクルが握り締めた。それを確認して、イツキが一気にミクルを引っ張り上げる。
しかしこの男、いったい今までどこにいたというのか。身を隠せそうな障害物はこの付近にはないので、タイミング的に考えると、ミクルが放り込まれるのを傍から見ていたようにしか考えられない。おまけに、先ほどまでいたはずのユキとその配下三人まで姿を消していた。正直なところ、ミクルにトドメをさす絶好のチャンスだったと思うのだが。

「大丈夫ですか?」

「うぅ……つめたかったぁ……」

そりゃ当然冷たかったであろう、もともと薄着なのだ、さらに外の気温にさらされた湖はほどよく冷えていて、ミクルの体温を著しく奪っていったに違いない。



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